これに対して、ムニューシン米財務長官は「これ以上、巨額の貿易赤字を許容できない」という立場を崩さず、G6の主張に耳を貸さなかった。G7の主要同盟国との関係より、11月の中間選挙を優先するトランプ政権の「米国第一主義」を鮮明にしている。

深刻な米欧同盟の亀裂

 トランプ政権の鉄鋼・アルミ輸入制限は、米国の「安全保障」のためというのが名目だ。しかし、肝心の米欧同盟に亀裂が深まったのだから、米国の安全保障には逆効果ということになるだろう。

 EUは1日、世界貿易機関(WTO)に提訴した。トランプ大統領が輸入制限を打ち上げると、EUはすかさず報復関税を打ち出す構えを示していた。20日には、ハーレー・ダビッドソンのオートバイなど代表的な米国製品の28億ユーロ規模の輸入に高関税を課す。

 EUは土壇場まで妥協を模索していた。通商担当のマルムストローム欧州委員がロス米商務長官やライトハイザー米通商代表部(USTR)代表と会談して、発動回避をめぐり折衝してきた。トランプ大統領が関心のある米国産液化天然ガス(LNG)の輸入拡大を調整の念頭に置いてきただけに、トランプ政権の強硬措置に怒りを隠さない。

 とくに、地球温暖化防止のためのパリ協定やイラン核合意からの離脱など、トランプ大統領による国際合意からの離反が相次いでいるだけに、今回の強硬措置で米欧同盟の亀裂は深刻になる恐れがある。

 米欧同盟の亀裂は、その核心である北大西洋条約機構(NATO)の運営に響くことも考えておかなければならない。もともとトランプ大統領はNATO軽視の言動が目立っていただけになおさらだ。米欧関係が揺らげば、中東に進出するロシアの台頭を許す結果になり、混迷する中東情勢をさらに泥沼化させかねない。

米朝首脳会談にらみの米中ハイテク覇権争い

 貿易赤字の解消で、トランプ政権が照準を合わせているのは中国である。米中間で調整は続いているが、貿易赤字解消を超えてハイテク分野の覇権争いがからむだけに、調整は難航必至である。トランプ政権が知的財産権侵害への制裁として、6月中旬にも追加関税を発動すると表明したことで、米中貿易摩擦が再燃する気配である。

 とくに追加関税の対象品目に「中国製造2025に関連する分野を含む」と明示していることに中国は反発する。習近平政権は、ロボットなど先端技術を、巨額の補助金をてこに2025年までに国産化する目標を打ち出している。米国による補助金廃止の要求を中国は受け入れない。米中間のハイテク覇権争いは激化する様相をみせている。

 中国をめぐる知的財産権問題は、米国だけでなく、日欧も共通の問題を抱えているが、トランプ発の貿易戦争が世界に広がったことで、知財問題をめぐる「対中国包囲網」は形成しにくくなっている。

 米中貿易戦争がどう展開するかは、6月12日の米朝首脳会談にらみの面がある。北朝鮮には中国が最も大きな影響力をもっている。トランプ政権内にも、国際政治の季節に「米中貿易休戦論」もある。これからの朝鮮半島情勢を決める米中首脳会談と、米中のハイテク覇権争いは複雑にからみ合っている。

自動車に波及なら日欧に打撃

 世界経済が大きな打撃をこうむるとすれば、トランプ流保護主義が自動車に及ぶときだろう。トランプ政権は、自動車にも高関税を課すことを検討している。それは、日本とドイツなど欧州の自動車産業を直撃することになる。仮に高関税が課せられることになれば、裾野の広い日欧の自動車関連産業への影響は計り知れない。

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