トランプ米大統領は、イラン核合意からの離脱を発表した(写真=AP/アフロ)

 名付けるなら、「Mr. Withdrawal」(ミスター離脱)だろうか。環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱して保護主義に走り、パリ協定から離脱して地球環境を危機にさらしたドナルド・トランプ米大統領がこんどはイラン核合意から離脱すると表明した。「第3の離脱」は中東危機をあおり、米欧対立を深刻化させるなど、世界の亀裂を招く。経済制裁しだいで原油価格上昇により世界経済を混乱させる恐れもある。オバマ前米大統領の実績をことごとく覆すことで、中間選挙を有利に導く作戦らしいが、世界の潮流を無視する「トランプ第1主義」は危険極まりない。主要国は国際合意からの身勝手な離脱を防ぐために幅広く協調するしかない。

イスラエル寄りで中東の混迷深まる

 トランプ米大統領のイラン核合意からの離脱に真っ先に「勇気ある指導力に感謝する」と歓迎したのは、イスラエルのネタニヤフ首相である。イスラエルはサウジアラビアとともにイランに敵対してきた経緯がある。ネタニヤフ首相は、イランが核合意の裏で核開発計画を進めていると新証拠があると打ち上げて、トランプ大統領による離脱に「論拠」を与えた。イラン核合意から離脱は米・イスラエル連携で進められた。

 トランプ政権はこれまでにも「イスラエル寄り」の姿勢を鮮明にしている。イスラエルの首都はエルサレムと宣言し、米大使館を移転することにした。中東和平に冷水を浴びせる結果になっている。女婿でトランプ政権に絶大な影響力をもつクシュナー上級顧問がユダヤ系米国人で、娘のイバンカ氏はユダヤ教に改宗している。経済制裁を主導するムニューシン財務長官もユダヤ系だ。こうした人脈は、トランプ政権のイスラエル傾斜と無縁とはいえないはずだ。

 トランプ大統領は、イラン核合意がイランに核開発規制に期限があることや、弾道ミサイル開発を制限できないことなどを理由に「最悪の合意」と強調している。しかし「中東の非核化」をめざすなら、事実上の核保有国であるイスラエルにこそ、核廃棄を求めるべきだろう。イスラエルの核保有を容認しておきながら、イラン核合意から離脱するのは、大きな矛盾である。

 危険なのは、トランプ大統領による合意離脱で、イランが核開発に逆戻りする恐れがあることだ。イランではトランプ大統領の合意離脱で中道派のロウハニ大統領が窮地に追いやられている。保守強硬派が台頭するなかでロウハニ大統領も「核合意が崩壊すれば、ウラン濃縮活動を再開する用意がある」と述べざるをえない状況だ。

 これに対して、サウジアラビアのムハンマド皇太子は「イランが核武装すればサウジも追随せざるをえなくなる」と述べている。このままでは中東に核開発ドミノが起きかねない。トランプ大統領のイラン核合意からの離脱は、シリア危機などただでさえ混迷する中東に新たな火種を持ち込むことになる。

 中東の混迷で、ロシアや中国の影響力が相対的に高まり、中東に「パワーの空白」が起きる可能性が強まる。欧州と連鎖するテロの温床が残る危険もある。

米欧亀裂は深刻に

 イラン核合意は、国連安全保障理事国の米英仏中ロとドイツの6カ国がイランとの間で、12年間協議したうえで2015年にようやくまとめたものだ。イランが濃縮ウランの貯蔵量や遠心分離機を大幅に減らす一方で、経済制裁を解除した。

 トランプ大統領による離脱表明に対して、英仏独首脳は「遺憾だ」との共同声明を公表した。マクロン仏大統領は「核不拡散の体制は危機に瀕している」と警告した。マクロン仏大統領、メルケル独首相が相次いで訪米し、トランプ大統領に合意継続を説得したばかりだけに、欧州の落胆は大きい。