イラン核合意は、オバマ米大統領時代の2015年、米英仏中ロの国連安保理常任理事国とドイツの6カ国とイランとの長い交渉を経てようやくまとまったものだ。イランが濃縮ウランの貯蔵量や遠心分離機を大幅に減らす見返りに、経済制裁を解除した。これにはイランに敵対するイスラエルが反発したほか、米国内にも不満が残されていた。
しかし、このイラン核合意から合意を主導した米国が離脱することになれば、シリア危機など、ただでさえ混迷する中東に危機が広がる可能性が出てくる。それだけに、ここでもトランプ政権の国際協調姿勢が問われている。

イランの核合意でも、日本は埒外に置かれてきた。国際政治がP5(米英仏中ロ)プラス1(ドイツ)で動かされるという現実を思い知らされた。国連安保理常任理事国だけならまだしも、そうではないドイツが合意に加わったことは、日独の国際信認の差を端的に示している。
同盟を超える唯一の被爆国
唯一の被爆国である日本が核をめぐる国際政治で「蚊帳の外」に置かれるのは、異常である。米国の「核の傘」に安住し、地球責任を果たそうとしないからだろう。日本の外交で日米同盟が死活的に重要であることは間違いない。しかし唯一の被爆国としての地球責任は、どんな同盟をも超える。「核兵器なき世界」をめざすことこそ、日本の政治、外交の基本であるべきだ。
その意味で、核兵器禁止条約に日本が加盟しないのは大きな問題である。広島、長崎の被爆者を落胆させ、ノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)などから批判されるのは当然だろう。
核兵器禁止条約には核保有国だけでなく、ドイツなど北大西洋条約機構(NATO)諸国も加盟していない。しかし、それを非加盟の論拠にしてはならない。唯一の被爆国である日本の責任は、同盟より重いはずだ。
「朝鮮半島の完全な非核化」を実現するには、まず日本が核兵器禁止条約に加盟し、北朝鮮と韓国にも加盟を促すことだ。それこそが唯一の被爆国・日本が「核兵器なき世界」を先導する道である。
米ロ中への核軍縮を呼び掛け
そのうえで、米国、ロシア、中国など核保有国で核軍縮を急ぐよう求めることだ。オバマ前大統領が「核兵器なき世界」を打ち出したことで、米ロの核軍縮交渉は進展したが、トランプ大統領の登場で核軍縮の流れを逆流している。冷戦末期の1987年、米国とソ連(当時)がようやく締結した中距離核戦力(INF)廃棄条約の存続さえ危うくなっている。
トランプ政権は「核体制の見直し」(NPR)は小型核兵器の開発など使える核兵器によって核戦力を増強する方針を打ち出した。この新方針を唯一の被爆国・日本が歓迎するのは、極め付きの対米追随といえる。トランプ政権の核増強に反発するロシアは一段の核増強をめざす構えだ。中国は、オバマ前大統領の「核兵器なき世界」をうたった期間も、ひとり核増強に取り組んでいた。このままでは、冷戦期のような核軍拡競争が起きかねない状況である。
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