環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を手始めに、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しに着手し、安全保障を理由に鉄鋼、アルミニウムの輸入制限を打ち出した。さらに、知的財産権保護をたてにして、「米中貿易戦争」を仕掛けている。

 最大の経済大国が保護主義の張本人になるのだから、世界に保護主義の連鎖が起きるのは避けられなくなる。とりわけ米中貿易戦争の余波は、欧州連合(EU)やアジア全体を巻き込むのは必至である。

 2国間の貿易赤字を「損失」とみるトランプ大統領の考え方は、経済学の原則から外れる誤りであり、相互依存を深めるグローバル経済の現実からかけ離れている。ロス商務長官、ライトハイザーUSTR(通商代表部)代表、ナバロ通商政策局長ら強硬な2国間主義者をそろえたトランプ政権は、時計の針を逆戻りさせようとしている。

「ノー」と言えなかった安倍首相

 安倍首相の使命は、そんなトランプ大統領の保護主義にはっきり「ノー」を突きつけることだった。日米経済摩擦の苦い経験を踏まえて、2国間主義の弊害を説き、多国間主義への復帰を求めるべきだった。にもかかわらず2国間協議の新たな枠組みを設けることにしたのは、トランプ政権が求める日米自由貿易協定(FTA)への流れを容認することになりかねない。自動車や牛肉が標的になるのは目にみえている。

 訪米するマクロン仏大統領とメルケル独首相はトランプ流保護主義にそれぞれ「ノン」「ナイン」を突きつける方針である。反保護主義でのEU首脳との連携こそ重要だったはずだ。

 安倍政権の通商政策は、時代の潮流を読む戦略性に欠けている。米抜きのTPP11と東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を結合し、アジア太平洋に自由貿易圏を拡大することこそめざすべきだ。そのうえで、米国を呼び込むのである。TPP、RCEPともに参加する日本の出番である。RCEPには中国が加わっており、米中貿易戦争を防ぐことにも役立つはずだ。

 NAFTAの見直しでも口をはさむ必要がある。日本の進出企業への影響が大きいからだ。サプライチェーンなどグローバル経済の相互依存の現実を直視するようトランプ政権に求めることが肝心だ。

安倍一強政治の弊害露呈

 トランプ流に迎合する安倍政権は世界リスクの責任を負うが、それだけではない。足元では霞が関が揺れている。財務事務次官のセクハラ問題は論外の不祥事だとしても、財務省では公文書改ざんなど問題が噴出している。しかし、官僚機構にだけ責任を押し付けるべきではない。「安倍一強政治」にこそ問題の根がある。

 忖度(そんたく)は流行語にもなったが、手堅さで生きてきた官僚が公文書の改ざんといった民主主義の土台を崩すような大罪を、政治圧力なしに実行するはずはない。忖度とは責任の所在をあいまいにする言葉である。しかし物事には明白な理由がある。それを忖度の一言で片づける野党やメディアも無責任だ。民主主義の将来のために、安倍一強政治の問題点を徹底的に洗い出す必要がある。

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