FRBの利上げをけん制

 懸念されるのは、トランプ大統領がFRBの利上げをけん制し始めていることだ。再任しないとしていたイエレン議長の再任をちらつかせながら、「低金利政策が好きだ」とけん制している。低金利の継続でドル高是正をめざす狙いがあるかもしれない。

 FRBは年内に2、3回の追加利上げをするとともに資産圧縮も検討し始めているが、こうしたFRBの出口戦略に待ったをかけることになれば、FRBの独立性が揺らぐことになる。政権の圧力でFRBの政策姿勢が変化する事態になれば、世界の金融市場を大混乱させるだろう。それは基軸通貨ドルの信認を揺るがすことになる。

「保護主義」プラス「ドル高是正」

 世界経済にとって、トランプ政権の姿勢は頭痛の種である。日米欧と新興国の20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議は、3月、4月と2度の会議でも「保護主義への対抗」という基本中の基本で合意できなかった。IMFの通貨金融委員会も、これまでずっと使われてきたこの表現を削除せざるをえなかった。米国一国が「保護主義」にこだわったからである。

 トランプ政権の主張は、その行動にも表れている。たとえば、日本などからの鉄鋼製品に反ダンピング(不当廉売)関税を適用し、輸入規制に動こうとしている。TPPから離脱し、北米自由貿易協定(NAFTA)を見直すだけでなく、2国間での貿易不均衡是正要求が活発化する恐れがある。

 そこに「ドル高是正」をからめて圧力を高める作戦と考えられる。基軸通貨国が各国・地域ごとに「保護主義」プラス「ドル高是正」を強力に展開することになれば、世界貿易は落ち込み、世界経済は停滞する。それは米国経済、ひいてはトランプ支持層にも打撃を及ぼす。この当然の経済原理を理解しようとしないのは、「反経済学」というしかない。

トランプ政権に物申す日本の責任

 安倍晋三政権は、トランプ政権と親しく付き合うだけですむのか。最も近い同盟国なら貿易や為替でトランプ政権の誤りを正し、経済学の常識を説くことから始めるしかない。金融緩和は脱デフレのためであり「円安誘導」に照準を合わせるものではないことを重ねて説明すべきだ。同時に、多少、円高に傾いても右往左往せず、経済を効率化できる体質に改めるしかない。

 「保護主義への対抗」を削除すべきと米国が主張するなら、先頭に立って抗議すべきは自由貿易の恩恵を受けてきた日本である。ただ黙り込む日本の姿勢に東南アジア諸国連合(ASEAN)は強い不満を抱いている。

 二国間主義ではなく、マルチ重視を鮮明にすべきだ。米国を除くTPP11での合意をめざすのはいいが、それだけではすまない。TPP11と東アジア地域包括的経済連携(RCEP)との結合を日本が率先することだ。日本と欧州連合(EU)の経済連携協定の締結を急ぐことは、トランプ主義を防ぐ道である。

 基軸通貨国が「為替操作国」といわれ、世界最大の経済大国が「保護主義国」とみられる。それは世界全体にとって最大の不幸である。トランプ政権に物申すべき日本の責任は重い。

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