「リトル・イングランド」の恐れ

 BREXITで最大の懸念材料は「英国の分裂」だろう。スコットランドは独立してEUに加盟し、北アイルランドはアイルランドに統合する。さらにシティーを基盤にするロンドンも独立し、シンガポールのような都市国家になる。「グレートブリテン」が「リトル・イングランド」になるという説である。

 これにはもちろん反論もある。スコットランド独立・EU加盟について、ブートル氏は「原油価格が120ドルの頃と違って50ドルでは経済的に独立はできないし、EU側からはカタルーニア独立問題を抱えるスペインに拒否権を発動される」と指摘する。それでもスコットランド独立を問う住民投票は実施されるだろう。

 ブートル氏もアイルランドと北アイルランドの統合の可能性がないわけではないとみている。そのアイルランドは、英連邦で最も成長力があるインドより、貿易依存度が高い。EU内の結びつきが英連邦よりいかに深いかを示している。

 メイ政権はBREXITの過程で「英国の分裂」という内憂を抱え込んでいる。

A50はハイウェイではない

 英国の離脱通知でEUとの離脱交渉は動き出したが、リスボン条約50条に基づく離脱交渉は難航が避けられない情勢だ。リスボン条約50条は「A50」と呼ばれるが、ハイウェイではなく、ロンドン市街のように交通渋滞は必至である。

 交渉の入り口からEUと英国の食い違いが目立っている。EUはEU予算の未払い金など約7兆円の決済が先だという。27カ国が統一して交渉に臨み、個別交渉は認めない。トゥスクEU大統領は離脱条件が達成できるまで、自由貿易協定(FTA)など将来協定は同時並行では協議しないと明言している。離脱交渉とFTAなどの将来協定を同時決着させたい英国との開きは大きい。

 とくに、EUでは4、5月の仏大統領選挙や秋の独総選挙などEU運営を左右しかねない国政選挙が待ち受けているだけに、英国に甘い顔はできない事情がある。メルケル独首相はかねて「良いとこ取りは許さない」と断言しているが、移民を制限しながら単一市場に自由にアクセスしようという英国には厳しい姿勢で臨まざるをえない。

 EU加盟各国の離脱承認を考えると、交渉は実質1年半でまとめる必要がある。離脱交渉が長引けば、英国に拠点を置く外資の流出が避けられなくなる。もちろん、英国が苦境に陥れれば、関係の深いドイツなどへの悪影響も想定されるが、EUの盟主としてドイツの抜け駆けは考えにくい。

 英国は離脱交渉の間に日米など2国間のFTAの準備を進められると考えているが、EUは2国間FTA交渉などは離脱交渉の決着後でなければ認めない方針だ。そうなれば、英国は世界貿易機関(WTO)のもとに置かれ、FTAなき状態に陥ることになりかねない。

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