EUあっての外資立国

 不思議なのは、英国経済がEU経済全体に組み込まれ、それを狙って外資が導入されてきたのに、なぜ合理的なはずの英国人がBREXITという不合理な選択をしたかである。

 英国の貿易のEU依存度は50%近い。EUのなかでサプライチェーンはきめ細かく張りめぐらされている。英国そのものよりEUという巨大市場に照準を合わせて外資は大挙して英国に進出している。対内直接投資残高の国内総生産(GDP)比は63%と際立って高い。欧州大陸諸国の2、3倍の水準である。日本の3.7%とは比べようがない。空港、港湾、水道、電力など社会インフラも含めて外資依存は浸透している。飲食などサービス業は移民労働者に支えられている。中央銀行であるイングランド銀行のカーニー総裁はカナダ出身だ。

 外資導入が可能だったのは、英国が開かれた社会であるだけでなく、英国がEUという巨大市場のなかにあったからだ。EUあっての外資立国だったのである。EU離脱で少なくとも外資は英国への新規投資を見合わさざるをえなくなる。外資に支えられた英国経済は外資の出方しだいで、その基盤を揺るがされることになる。メイ首相が日産自動車や日立製作所といった日本の進出企業に直接働きかけているのは、外資の動きが英国経済の将来を決めるという危機感からだろう。

金融センターの座は盤石か

 ニューヨークのウォール街と並ぶロンドン・シティーの金融センターとしての地位は盤石だろうか。米金融大手のゴールドマン・サックスはBREXITをにらみ、英国からの異動を含めてEU内の拠点の人員を数百人規模で増強するとともに、EU拠点への投資を急ぐ方針だ。EU内の金融パスポートが適用されなくなるのなら、シティーから機能を分散せざるをえなくなる。

 問題はどれだけの機能が分散され、雇用が削減されるかである。1割説から3割説まで幅広い観測があるが、金融ビジネスは英国の基幹産業だけに、英国経済に深刻な打撃を与えかねない。BREXITを推奨してきたロジャー・ブートル氏(英調査会社キャピタル・エコノミクス会長)もシティーがセンターになってきたユーロ決済機能は「移転せざるをえない」とみる。

 欧州大陸ではフランクフルト、パリ、アムステルダムなどがシティーからの受け皿をめざして、誘致合戦にしのぎを削っている。シティーが一挙に金融センターの座を失うことはないにしても、機能分散が進むことはまちがいないだろう。

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