これはもちろん「ローマの休日」を楽しんだグレゴリー・ペック演じる記者へのメッセージなのだが、欧州統合は「人と人とを結びつける」というモネの思想にも通じるところがある。名作の舞台であるローマは欧州統合の舞台になり、そしていまEUの将来を占う舞台になった。

映画「ローマの休日」の一場面。(写真:Everett Collection/amanaimages)

大欧州という大所帯を束ねる難しさ

 ローマ条約によるEECから欧州共同体(EC)へ、そしていまのEUへ、EUは拡大と深化を遂げた。しかし、大欧州という大所帯ゆえの難しさに直面している。

 ローマ条約調印にならって、加盟27カ国首脳とEU機関のトップたちがローマ宣言に次々と署名する儀式が行われた。ローマ条約調印で使用されたペンを使ってである。その光景をみていて、それぞれに国家主権を背景にした27カ国の首脳を束ねるのはいかに困難かが実感できた。なにしろ使用言語は20カ国語にも及ぶ。英国などから批判されるブリュッセル官僚のかなりは、実は通訳官や翻訳官である。言語主権を維持しようとすれば、どうしてもコストはかかる。

 「拡大」と「深化」という目標をともに実現できたのは、冷戦終結という歴史的転換にめぐまれたからだった。ふつう「拡大」と「深化」は二律背反する。いまEUはその新しい現実に直面している。

マルチ・スピード構想の光と影

 このローマ特別首脳会議を前に、EU委員会はEUの将来について5つのシナリオを提示している。現状維持から欧州合衆国構想まで幅広く盛り込まれているが、ユンケルEU委員長やドイツのメルケル首相ら主要国首脳は「マルチ・スピード構想」を推奨している。意欲ある一部の国だけが先行して統合を進めるという構想だ。モネが描いた目標である「欧州合衆国」構想は、一つの選択肢にすぎなくなってしまったようだ。いまその夢を語るのは、フェルホススタット欧州議会議員(ベルギー元首相)ら数えるほどしかいない。