最大の敗者は米国

 トランプ大統領は「貿易戦争、いいじゃないか。簡単に勝てる」などを公言しているが、米国発で保護主義の連鎖が起きれば、最大の敗者は米国になるだろう。

 トランプ政権は国際協調派が次々に更迭や辞任に追い込まれ、保護主義にブレーキがかからなくなっている。世界に保護主義の連鎖が続き、その傷が深まりかねない。経済政策の司令塔である国家経済会議(NEC)議長は、輸入制限に反対したコーン氏が辞任し、対中強硬派のクドロー氏が指名された。ロス商務長官、ナバロ通商製造政策局長と並んで、対中強硬派が顔をそろえることになる。

 国際協調路線ゆえに更迭されたティラーソン国務長官の後任は、強硬派のポンぺオ氏だ。マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)の座を引き継ぐのは、「ネオコン」で名をはせたボルトン氏である。これでは、トランプ大統領の強硬路線に待ったをかけるどころか、政権全体が呼吸を合わせて一直線で突き進む危険がある。覇権国としての米国の信認は地に落ちるだろう。保護主義に警告した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも「米国の孤立」が鮮明になった。

 米連邦準備理事会(FRB)の政策運営も厳しさを増すだろう。パウエル新議長は年3回の利上げという慎重な出口戦略を打ち出したが、物価しだいでは利上げを加速する必要に迫られる。しかし、保護主義発動による世界同時株安で消費が萎える恐れもある。保護主義の連鎖で、世界貿易が停滞し、米国経済が打撃を受ければ、利上げテンポにも影響しかねない。

 とくにトランプ大統領から貿易戦争をしかけられた中国は米国債売却まで視野に入れているようにみえる。劉鶴副首相は「中国は準備ができており、国家の利益を守る実力もある」と警告している。中国が米国債を売却すれば、米市場を揺るがしかねないだけに、パウエルFRBの対応はさらに厳しくなる。

 米産業界はトランプ発の貿易戦争がコスト増になってはねかえることを警戒している。トランプ大統領の支持基盤に恩恵をもたらすどころか、打撃をこうむることが鮮明になれば、劣勢が予想される11月の中間選挙にも影響するだろう。貿易戦争はすべてが敗者になるが、最大の敗者は火をつけた米国であることを思い知らされるはずだ。

米中覇権争いの様相

 「米中貿易戦争」は、貿易を超えた覇権争いの側面もある。知的財産権の侵害を名目にしているのは、先端技術をめぐる大競争を想定しているからだろう。米国は知的財産権の保護では同じ問題を抱える日欧との連携をめざしたいところだろう。一方、中国は知的財産権保護で日米欧連携、中国包囲網という事態だけ避けたい考えだ。トランプ保護主義に対抗して世界貿易機関(WTO)を重視し、自由貿易を堅持するため日欧との連携をめざしている。

 米国が警戒するのは、習近平政権が2025年に向けて人工知能(AI)やビッグデータ解析、産業ロボットなど次世代技術に集中投資しようとしている点だ。米国から中国への技術移転が続けば、先端分野でも米中逆転が起こりうるという警戒心が潜む。

 米中はこれまでに経済相互依存を深めてきているだけに、貿易戦争が覇権争いに発展すれば、世界経済への打撃は深刻化しかねない。