3月8日、トランプ米大統領はホワイトハウスで労働者らに囲まれ、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限措置を命じる大統領告示に署名した(写真:AP/アフロ)

 トランプ発の貿易戦争が始まる危険が高まってきた。トランプ大統領は3月8日、安全保障を理由に、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課す輸入制限措置の発動を命じる文書に署名した。北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し交渉中のカナダ、メキシコには当面猶予するほか、同盟国とは除外の協議に応じる余地をのぞかせたが、原則としてすべての国に適用する。これに対して、中国や欧州連合(EU)は対抗措置を取る構えである。貿易戦争に勝者はなく、世界経済の悪化によって米国を含めすべての国が敗者になる。トランプ発の貿易戦争を防ぐには、環太平洋経済連携協定(TPP)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日EU経済連携協定を軸に「メガFTA(自由貿易協定)」の潮流を取り戻し、孤立する米国を呼び戻すしかない。

米国内の反対押し切り選挙対策

 トランプ大統領が輸入制限措置に署名する8日の記者会見は異様だった。最初に表れたのは、鉄鋼労働者たちだった。次いで、関係閣僚が並んだ。ムニューシン財務長官やロス商務長官らが顔をみせたが、経済政策全般を統括するコーン国家経済会議議長の姿はなかった。大統領の輸入制限措置に反対して辞任を表明したばかりである。「風とともに去りぬ」(Gone with the wind)をもじって「Cone with the wind」といわれる。

 米産業界にはこの輸入制限は自動車、エネルギー業界などコスト増、需要減退要因につながるという懸念が強い。競争力を損なうという見方もある。さらに報復合戦につながれば、世界貿易を縮小させ、ただでさえ神経質な市場の大きな波乱要因にもなりかねない。

 与党共和党内でもライアン下院議長が「貿易戦争を憂慮している」として、輸入制限措置の発動をやめるようホワイトハウスに申し入れた。こうした米国内の反対にもかかわらず、トランプ大統領が強硬策を打ち出したのは、11月の中間選挙で劣勢を巻き返すうえで保護主義こそ有効だと考えているからだろう。13日に鉄鋼で栄えたピッツバーグのあるペンシルバニアで下院補選があるのも、強硬策を急がせた背景にある。