イタリア混迷などEUに不安は残るが
メルケル首相の「復活」はEUの好材料だが、同じ3月4日に実施されたイタリア総選挙によるイタリア政治の混迷は、EUには不安材料である。
総選挙はベルルスコーニ元首相率いる中道右派連合、レンツィ前首相の中道左派の民主党、ディ・マイオ党首率いるポピュリズムの「五つ星運動」の三つ巴の争いになったが、中道右派連合が首位になった。第1党は五つ星運動である。しかし、どの党も過半数には達せず、「ハング・パーラメント」(宙吊り議会)に状態になり、どんな形の連立政権になるか情勢は極めて流動的である。
イタリア政治の混迷は半ば常態化しており、ドイツ以上に政治空白が長引く可能性さえある。中道右派連合の「北部同盟」は反EU姿勢で移民排斥など鮮明にしているし、五つ星運動も反ユーロを掲げてきた。
しかし、選挙戦では五つ星運動は反ユーロを封印するなど現実路線に転じ支持を拡大したとみられる。選挙結果がすぐに「反EU」「反ユーロ」につながるとみることはできないだろう。危険なのは、五つ星運動と北部同盟の連携だが、連立の組み方によっては、過激な「反EU」「反ユーロ」を薄められることも考えられる。イタリア経済の低迷は続いており、どんな政権であれ、好調なユーロ圏経済との連携が欠かせない。
EUにとって、深刻なのは「東西亀裂」である。とりわけポーランドは司法の独立を尊重していない。EUの基本的価値を損なうことになれば、EUの議決権を停止される可能性もある。ポーランド政治の行方しだいでハンガリーなど旧東欧圏にも連鎖しかねず、亀裂が深刻化する恐れもある。
ユーロ危機はEU内で「南北亀裂」を招いたが、ユーロ危機が収束したいま「東西亀裂」という事態に直面している。
最後の重い使命
メルケル首相は単なるドイツの首相ではない。EUの盟主であり、「世界のアンカー」である。長い政治空白で求心力は低下し、4期目の任期を全うできないのではないかともいわれる。早くも「レームダック」説がささやかれるなかで「ポスト・メルケル」への動きも活発化しメルケル首相の足元を揺さぶるだろう。
しかし、世界を見渡して今ほどメルケル首相に「世界のアンカー」としての期待が集まっている時期はない。EU内の信認はフランスや欧州委員会だけでなく旧東欧圏も含め最も厚い。英国のEU離脱では、メイ首相が頼みの綱としている。中国との関係は先進国首脳で最も深く、ロシアの関係も歴史的に深い。そして何より、トランプ米大統領と握手をせず、同盟国として物申せる立場にある。
世界の危機を救うのに、この習熟したまっとうな政治家に託すしかない。メルケル首相の最後の仕事は限りなく重い。
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