トランプの暴走を止められるか
そんな足元が確かでないメルケル首相だが、この最もまともな政治家に世界の期待が集まっているのはたしかである。なにしろ世界はトランプ大統領をはじめとするポピュリスト(大衆迎合主義者)と習近平中国国家主席やプーチン・ロシア大統領ら強権政治家が跋扈する異常事態にある。習近平国家主席は任期撤廃を打ち出し、プーチン大統領は核軍拡競争を乗り出す姿勢を鮮明にしている。そうしたなかだけに、国際協調と自由貿易を守り中道の民主政治を地道に進めるメルケル首相の存在価値は高い。
なにより、トランプ大統領の暴走を止められるかが問われる。トランプ大統領は鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の追加関税を課すとあからさまな保護主義に打って出た。これに中国やEU、カナダは対抗装置を打ち出す構えだが、その対抗措置にまた欧州車への課税など報復をちらつかせている。世界貿易機関(WTO)体制を揺るがすものである。トランプ大統領は「貿易戦争、いいじゃないか。簡単に勝てる」などと米大統領にあるまじき発言を繰り返している。保護主義が世界貿易と世界経済を委縮させ、市場に大きな波乱要因になるのは間違いない。「貿易戦争」に勝者はなく、世界中が敗者になる。
メルケル首相はさっそくこのトランプ発の「貿易戦争」を防ぐため行動することが求められる。政治空白の5カ月の間、トランプ大統領への警告もあまり聞かれなかった。4期目に入れば、トランプ大統領に直言することから始めなければならないだろう。
「メルクロン」でEU主導
ドイツの政治空白の間、孤軍奮闘していたのは若きマクロン仏大統領である。EUを前に動かすとともに、反トランプなど世界への発信を一手に引き受けてきた。メルケル不在でかえってマクロン仏大統領の存在感が高まった面があるのは事実だろう。やや皮肉だが、それは若き大統領のデビューには好機だったのかもしれない。
メルケル政権がEU重視のSPDとの大連立に戻ったことで、マクロン大統領が掲げるユーロ改革には実現に向けて動きやすくなったといえる。マクロン大統領はユーロ共通予算やユーロ財務省など野心的なユーロ改革案を掲げてきたが、SPDはこれに同調し、大連立合意に大筋盛り込まれた。こんどはユーロ改革に慎重姿勢も残るメルケル与党との調整が重要になるが、ユーロ改革が懸案の「財政統合」に第一歩を踏み出すことになる可能性もある。メルケル首相が懐の深さを示せるかどうかが試される。
そうなれば、「メルクロン連携」がユーロ改革をてこにEUを再起動させる機会になるだろう。
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