ドル高で通商摩擦激化
米連邦準備理事会(FRB)はパウエル新議長のもとで、イエレン路線を引き継ぎ慎重な出口戦略を取る見通しだが、長期金利上昇による市場の波乱が収まらないと、出口戦略は難しさを増すだろう。何よりトランプ政権が望まない「意図せざるドル高」に遭遇する可能性がある。
そうなれば、二国間での貿易赤字解消という誤った通商戦略を取るトランプ政権と各国との通商摩擦は激化するばかりだろう。トランプ政権はすでに鉄鋼、アルミの輸入制限措置を打ち出し、これに中国や欧州連合(EU)は対抗措置を辞さない構えをみせている。意図せざるドル高を背景に、通商摩擦が激化すれば、世界経済を保護主義の渦の中に巻き込む危険がある。
中ロや新興国にも打撃
核軍拡競争は、もう一方の当事者になるロシアや中国経済にも打撃を及ぼす。とくにウクライナや中東への「拡張主義」を続けるロシアのプーチン政権の足元をすくうことになりかねない。プーチン大統領はソ連時代の栄光にとらわれているようだが、覇権国家・米国に対抗する核軍拡がソ連崩壊につながったという歴史の教訓に学ぶべきだ。
中国はオバマ前大統領が「核兵器なき世界」を唱え、世界が核軍縮に動いた際にも核増強をやめなかった。「一帯一路」構想が東シナ海、南シナ海などへの海洋進出と連動するなら、第2の経済大国とはいえ、実力を超えた核戦略など軍事大国化はやがて大きな壁にぶつかるだろう。
米金利上昇とドル高の進行は、ドル建て債務を抱える新興国を揺さぶることになる。メキシコ、南アフリカ、ブラジル、インドネシア、トルコなど新興国は苦境に追いやられる。それは冷戦末期、核危機の時代の中南米債務危機を思い起こさせる。
唯一の被爆国の地球責任
核軍拡競争は世界の安全保障環境を危険にさらす。それだけでなく、リーマンショック後10年の世界経済に危機を再燃させかねない。だとすれば、唯一の被爆国であり、第3の経済大国でもある日本の責任は重大である。
唯一の被爆国であるにもかかわらず、日本は米国による「核の傘」に遠慮してか、核兵器禁止条約に賛同せず、国際社会の非難を浴びた。北朝鮮危機に直面して、トランプ政権との連携を優先したのだろうが、日本には唯一の被爆国として同盟を超えた「地球責任」がある。
もっと問題なのは、核兵器を使用しやくするトランプ政権の核戦略見直しを河野太郎外相が評価したことである。核廃絶こそ唯一の被爆国の外交の基本でなければならないのに、核軍拡競争を招くトランプ戦略を唯々諾々と受け入れるのは論外だろう。こんなときにこそ、米国に直言できなれば、国際社会の信認は得られない。
世界が再び核危機におおわれようとする時代にあって、唯一の被爆国である日本には「核兵器なき世界」に向けて先頭に立つ覚悟が求められる。
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