世界は再び冷戦時代のような「核の危機」におおわれ始めている。北朝鮮の核・ミサイル開発に加えて、米ロ間で核軍拡競争が始まる危険がある。トランプ米政権の「核体制の見直し(NPR)」は小型核兵器の開発など核兵器の使用条件を緩和し、核戦力を増強する方針を打ち出した。冷戦末期の1987年に米ソがようやく締結した中距離核戦力(INF)廃棄条約の存続すらあやぶまれている。オバマ前大統領が打ち出した「核兵器なき世界」の理想は葬り去られようとしている。核軍拡競争が再燃すれば、米国の財政赤字は膨張し、意図せざるドル高や金利上昇につながる。それは混迷する世界経済を深刻な危機に陥れるだろう。
葬られた「核兵器なき世界」の理想
トランプ大統領は、まるで「ちゃぶ台返し」のようにオバマ前大統領の決定を覆してきたが、これほどの大逆転はないだろう。「核兵器なき世界」から核戦力の増強への逆転である。オバマ大統領自身も認めていたように「核兵器なき世界」が遠い理想であることは事実だろう。しかし、そのゴールに向けて着実に核軍縮を進めるのは米ロをはじめ核保有国の責任であるはずだ。
にもかかわらず、トランプ政権の核戦略見直しでは、小型で使いやすい核兵器を開発し、その使用条件を緩和するなど核兵器の役割を高める戦略を打ち出している。サイバー攻撃など様々な新たな脅威に柔軟に対応するためだとしているが、核兵器使用のハードルを下げようとする戦略なら、「核の危機」は一気に高まる。
このNPRには、核近代化を進めるロシアや中国は反発しており、核軍拡競争に火をつける危険がある。そうでなくても、核軍縮は進んでいない。世界の核弾頭の9割以上を保有する米ロの核軍縮は、2011年の新戦略兵器削減条約(新START)の締結を最後に停滞している。米国はロシアが冷戦末期に締結したINF廃棄条約に違反し、中距離核ミサイルの開発・配備を続けていると非難し、ロシアも非難合戦に応じている。このままでは歴史的なINF廃棄条約が空文化しかねない状況だ。
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