遥かなる黄金時代

 米国の経済学者ほど政権に大きな影響力を発揮してきた存在はない。なにしろノーベル経済学賞を授賞した米国の経済学者は51人にものぼる。日本人経済学者は皆無なのだから、米国人経済学者の影響力の大きさは明らかだ。

 米国人経済学者として初めてノーベル経済学賞を受けたのはポール・サムエルソン教授だ。世界的なベストセラー「経済学」の著者として、また新古典派総合の理論経済学者として戦後の世界の経済学を主導した。同時に、民主党のケネディ政権の経済顧問としてワシントンに大きな影響力を誇った。その系譜は甥の経済学者、ローレンス・サマーズ元財務長官に受け継がれた。

 筆者は1980年代、MIT(マサチューセッツ工科大)のサムエルソン教授の研究室をたびたびたずねた。教授のデスクには、かならずウォールストリートジャーナル紙が置かれていた。大経済学者は、米国経済、金利、為替など現実の経済について、嫌な顔ひとつせず語ってくれた。象牙の塔にこもるのではなく、常に経済の現実を見据えていた。

 そのサムエルソン教授のライバルは、ミルトン・フリードマン教授だった。マネタリストで自由主義者の教授は、共和党のニクソン政権、レーガン政権の理論的支柱になった。金ドル本位のブレトンウッズ体制はニクソン・ショックで崩壊し、変動相場制に移行することになるが、その背景にいたのがフリードマン教授だった。

 1985年のプラザ合意のあと、スタンフォード大のフーバー研究所にいたフリードマン教授に会った。目標相場圏構想が取りざたされていたころ「変動相場制は、最も問題の少ない国際通貨制度だ。各国の通貨当局が市場を操作しようとしなければ、もっとよくなる。変動相場制は将来も存続するだろう」と言い切った。ドル高是正のため通貨当局が市場介入で協調したプラザ合意には、自由経済論者らしくあくまで批判的だった。

ミルトン・フリードマン教授=2006年(写真:ZUMA Press/amanaimages)

「ものいえば唇寒し」でいいのか

 いまの米国の経済学者にサムエルソン教授やフリードマン教授のような絶大な影響力を期待するのは無理だろう。二人の経済学の巨人のような鮮明な経済学説も経済思想もカリスマ性も現代の米経済学者にはない。

 それにしても、世界第一の経済大国にあって、その大統領が時代遅れで誤った経済観にもとづいて経済運営を実施しようとするとき、経済学者がはっきりと「ノー」を突きつけられないとすれば、何のための学問かが問われることになる。

 ノーベル経済学賞の授賞者を中心に、米国の経済学者は結束し共同宣言をまとめ、トランプ政権の暴走を止める責務がある。さらに日欧など世界中の経済学者に参加を呼び掛けることだ。「ものいえば唇寒し」はもう許されない。トランプ政権発足から1カ月。いまこそトランプ政権の誤った経済観を正すため声を上げるときだ。経済学者の出番である。