
米国の株式市場は2月5日、史上最大の下落を記録し、世界中を株安の連鎖に巻き込んだ。米国株の暴落は、雇用の拡大で賃金が予想以上に上がり、長期金利上昇を招いたのが直接の引き金だが、その背景には、トランプ大統領が打ち出した大規模減税、インフラ投資、さらには新たな核軍拡によって米国の財政赤字が拡大する危険が潜んでいることがある。いわば景気過熱と財政赤字拡大による「トランプ・バブル」の矛盾が露呈したとみておかなければならない。それは好調を維持してきた世界経済を混迷させ、リーマンショック後の超金融緩和からの出口戦略を進める米連邦準備理事会(FRB)をはじめ各国中央銀行の舵取りをむずかしくしかねない。
パウエルFRB新体制に試練
トランプ大統領らしいのは、世界経済フォーラムのダボス会議や一般教書演説などで米株価の「記録更新」を繰り返し誇ってきたのに、「史上最大の下げ」には口をつぐんでいることだ。しかし、この米株価暴落でだれよりも衝撃を受けたのは、当のトランプ大統領より5日に就任したばかりの新任のパウエルFRB議長だろう。
米国株の暴落は、FRBにパウエル新議長が登場するのを待っていたかのように起きた。1987年10月のブラックマンデー(米国株の暴落)はグリーンスパンFRB新議長に試練を与えたが、それでも議長就任から2カ月を経ていた。このコラムでパウエル氏とグリーンスパン氏の共通項を分析した(2017年11月7日付記事「FRB次期議長にグリーンスパンの教訓」参照)が、株価暴落が新議長就任を「直撃」することになるとは予想しなかった。
グリーンスパン氏の場合は、このブラックマンデーを受けてウォール街の友人たちに電話をかけまくり、その実態を把握する。そして流動性供給によって危機を最小限に食い止めた。その実績は高く評価され「マエストロ」(巨匠)への道を歩むことになる。
しかし、パウエル新議長の場合、対応はそう簡単ではない。議長宣誓式後のビデオメッセージで「用心深くあり続け、湧き起こるリスクに対処する用意がある」と述べているが、対応を誤れば、危機を増幅する恐れがある。
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