そんな「右翼」と目される人物が、トランプ大統領の最側近として、各国首脳との電話会談に立ち会っているのである。それどころか、安全保障の最高意思決定機関である国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーに加わった。国家情報長官や統合参謀本部議長を非常任に降格させての起用だった。

 事実上の首相にあたる首席補佐官のラインス・プリーバス氏と同格とされるが、その影響力はプリーバス氏をしのぐかもしれない。米議会で閣僚の承認が大幅遅れになるなかで、バノン氏の突出ぶりが目立っている。各省庁抜きでの大統領令はこうして連発された。

 これが移行期間の一時なごたごたなのか、それともトランプ政治の方向性を示すものなのか注視する必要があるが、「右翼・保守連立政権」がいつの間にか「右翼政権」になってしまうのが最も危険なシナリオだ。

欧州極右ポピュリストと連動の危険

 こうしたトランプ流排外主義に、最も警戒感を強めているのは、EU各国の首脳である。マルタの首都バレッタで開いたEU首脳会議では、EU分裂を歓迎するかのようなトランプ大統領の言動に批判が相次いだ。オランド仏大統領は「欧州をどう築くかは我々の問題で、外から干渉されるものではない」と反発した。ドイツのメルケル首相は「テロ対策のために特定の信条や出身の人々に疑いをかけることは正当化されない」とイスラム圏からの入国制限に警告した。議長国マルタのムスカット首相は「欧州は米国に沈黙しない」と強調した。

 EU首脳がトランプ流を警戒するのは、EUの行方を決める重要な選挙が待ち受けているからだ。3月にはオランダの総選挙、4、5月にはフランスの大統領選挙、9月にはドイツの総選挙が予定されている。これらEUの原加盟国で実施される選挙では、極右ポピュリストが勢いを増す可能性がある。トランプ大統領の誕生で「今度は欧州の番だ」と勢いづき、しかも連携を強めている。

 オランダ自由党のヘルト・ウィルダース党首は反EUだけでなく、反イスラムの姿勢をみせる。フランス国民戦線のマリーヌ・ルペン党首はEU離脱を国民投票にかけ、ユーロからも離脱すると訴える。「ドイツのための選択肢」のフラウケ・ペトリ党首は反難民を掲げている。

 カギを握るのは、ドイツとともにEUの行方を決めるフランスの大統領選である。最有力とみられてきた共和党のフランソワ・フィヨン元首相が妻の給与をめぐる疑惑から支持率が低下し、ルペン氏を相対的に浮上させる結果になっている。ルペン氏は大統領選に向けて、トランプ大統領の「米国第一」にならって「フランス第一」を掲げた。

 トランプ大統領は、こうした欧州の極右ポピュリストとの具体的な連携は避けている。自らに「右翼」というレッテルを張られることは警戒しているからだろう。しかし、英国に続いてEU離脱をする国が出るという予言は、事実上の欧州極右へのエールと受け止められる。移民排斥、難民受け入れ規制などその排外主義は極めて似通っている。

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