この格差問題は「忘れられた人々」を世界中に生み、ポピュリズムをはびこらせる温床になる。英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票で「忘れられた人々」の反逆が始まり、米国大統領選でのトランプ大統領の誕生につながっている。EU内の極右ポピュリズムの台頭にも連動している。

 ダボス会議に集まる政財界のトップたちは、ほとんどが世界の資産の半分を占める上位1%のなかにいる人たちだろう。グローバル化だけで格差が拡大したとはかならずしもいえないが、グローバル化の象徴であるダボス会議が「1%クラブ」であることは事実だろう。そのダボス会議を格差拡大によって登場したトランプ大統領が乗っ取ったとすれば、大いなる皮肉である。

爪を隠したポピュリスト

 これまでダボス会議で米国は脇役に甘んじてきた。世界各国から首脳が集まったといっても、基調講演をするのは、たいていは地理的にも近い欧州首脳だった。最近では第2の経済大国になった中国の存在感が際立っていた。昨年は習近平国家主席自らが出席して中国の時代を演出した。

 米国大統領の登場は18年ぶりである。それも閣僚8人を引き連れての大代表団である。ダボス会議と対極にあるトランプ政権がどんな姿勢を示すか世界中が注視した。ところがトランプ大統領はダボスの空気を読んでか、日ごろ連発していた挑発的な言葉を避けモデレートな姿勢を演出した。まるで「対米投資のセールスマン」にみえた。

 ムニューシン米財務長官が「貿易面でドル安は米国にとっていいこと」と述べ、ドル安・ユーロ高・円高を招くと、トランプ大統領はそれを打ち消すかのように「強いドルが見たい」とドル高への期待を表明した。ECBのドラギ総裁が「我々は通貨安競争を禁じられており、為替レートをターゲットにできない」とムニューシン財務長官の口先介入に不快感を表明するなど、米通貨当局のドル安誘導に反発が強まった。それに配慮して中和作戦に出たともいえるが、それ以上に、単純に対米投資を促すにはドル高基調が望ましいとみたのかもしれない。

 ダボスでの講演でトランプ大統領が強調したのは、株価の記録的な上昇や雇用拡大など米国経済の強さだった。「米国第一主義」を「米国の成長が世界の成長につながる」と世界との連携のなかでとらえてみせ、「米国の孤立」ではないことを力説した。

 なにより、米大統領としての初仕事で「永遠に離脱する」とまで言っていたTPPについての発言は驚きだった。「もし我々の利益にかなうなら、TPP参加国とは個別とともにグループでも協議する用意がある」と述べ、条件しだいで復帰もありうることを示唆した。もっとも、これをトランプ大統領の「変身」と読むのは早計である。ひとつは11月の中間選挙へのリップサービスだろう。大統領の支持基盤である畜産業者がTPP離脱でオーストラリアとの競争上、不利になることに不満を高めていることへの対応ともいえる。

 最大のライバルと位置付ける中国へのけん制とみることもできる。講演でも知的財産権の侵害や政府補助金などグローバル市場をゆがめる慣行は許さないと述べ、中国への強硬姿勢をのぞかせた。トランプ流2国間主義はまず中国に照準を合わせている。

 ダボスでのトランプ講演が軍楽隊の演奏で始まったのには違和感があったが、用意された原稿を注意深く読み、得意の不規則発言はほとんどなかった。好調な世界経済のなかで、トランプ流に安心感を与えようという戦略だったともいえる。

 しかし、そうして自分流をしだいに浸透させることこそがポピュリストの常套手段である。TPP復帰を示唆したとはいえ、北米自由貿易協定(NAFTA)の分断や地球温暖化防止のためのパリ協定離脱など反国際主義は変わらない。「爪を隠したポピュリスト」に警戒を解くわけにはいかない。

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