「米国第一」の不経済学

 トランプ政権ほど保護主義を全面に打ち出した政権は米国にかぎらず戦後の民主世界でみたことがない。就任演説で「(自国産業の)保護こそが素晴らしい繁栄と強さにつながる」と恥ずかしげもなく保護主義を鮮明に主張したのは驚かされた。

 さっそく環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱し、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に乗り出すことをした。貿易不均衡是正のため、事実上の輸出補助金や特定国の輸入への高関税など、世界貿易機関(WTO)のルールに反する措置がまじめに検討されている。

 金融政策運営でトランプ・ラリーの恩恵を受ける日銀の黒田東彦総裁は「保護主義の可能性は低い」と楽観論を取るが、トランプ政権の言動は保護主義そのものである。自動車産業を中心にメキシコの工場を建設しようとする個別企業に計画の撤回まで強要するのは、中国顔負けの「国家資本主義」といえる。こうした強権政治が資本主義と民主主義の最先進国で白昼堂々とまかり通るのは、驚きといわざるをえない。

 トランプ氏の経済観は「輸出は善・輸入は悪」というものだ。グローバル経済の相互依存、網の目のようなサプライチェーンなどといった経済の現実を無視した、時代遅れの経済観だといわざるをえない。まともな政治家なら中国を含めて世界中のどの政治家も採らない誤った経済観である。この誤った経済観に基づいて、保護主義が発動されるのは危険極まりない。それは世界経済を分断し、貿易と成長を抑制する。結局、トランプ氏の支持層である中低所得の白人の雇用増にもつながらず、新たな不満を生むだけだろう。

「世界の悪役」でいいのか

 「米国を再び偉大な国にしよう」とトランプ大統領は呼びかけたが、トランプ大統領の登場そのものが「偉大な国」だった米国の信認を傷つけているのは間違いない。「米国第一」を掲げるトランプ大統領はいまや「世界の悪役」とみられている。当初勝ち目はないとみられていた大統領選では、「悪役」でも目立てばいいと考えたのだろう。その悪役ぶりを面白がり持ち上げた米国メディアの責任は重い。大統領になれば、それらしくなるという見立ては完全に間違っていた。三権分立の米国政治で大統領の独走は許されないという見方もあるが、米国企業に対する強権発動を見る限り、やはり米大統領の権限は大きいといわざるをえない。

 「米国第一」への傾斜を防ぐには、日欧など同盟国の友情ある説得が欠かせない。保護主義の不経済学を粘り強く説くうえで、安倍晋三首相の役割は大きい。