きしむ米欧同盟、深まる中東危機

 超大国・米国による「米国第一主義」は世界を揺さぶる。とくに継続性、安定性が欠かせない外交の分野でも米国第一主義を貫く姿勢を鮮明にしたのは危険である。オバマ政権の国際協調路線から自国本位への大転換である。それは米国に根付くモンロー主義、孤立主義への回帰だけでは片づけられない偏狭なナショナリズム(国家主義)である。

 とりわけ、第2次大戦後の米国外交の基本である米欧同盟を疑問視し、北大西洋条約機構(NATO)を批判しているのは大きな問題である。NATOの亀裂は国際社会を根底から揺さぶることになる。

 トランプ氏がEU解体に言及していることに、EU各国首脳は神経をとがらせている。英国のEU離脱を称賛し、離脱国が続くと予言したことに、オランド仏大統領は「EUのことはEUで決める」と強い不快感を示した。EUでは反EUを掲げる極右の台頭に頭を痛めているだけに、トランプ氏のEU解体論はがまんがならないのだろう。

 第2次大戦後の欧州統合は、独仏和解と米国の支援が相乗効果を発揮して実現した。歴代の米政権はEU統合を全面的に支持してきており、トランプ氏のEU解体論は、EU内の極右ポピュリズムと連携するものと受け止められても仕方がない。

 トランプ氏の中東政策は中東危機に拍車をかける危険がある。オバマ政権下でようやくまとめたイランの核合意を反故にすることになれば、中東の混乱をさらに深めることになりかねない。イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移転するというのも新たな火種になりかねない。アラブ諸国は強く警戒している。トランプ政権がイスラエル寄りに傾斜すれば、中東危機はさらに深刻化しかねない。

中ロの台頭許す

 トランプ政権が国際協調路線を止めて自国本位になれば、中国とロシアの台頭を許すことになるだろう。とくにロシアのプーチン政権はトランプ大統領の誕生を歓迎している。ウクライナ危機で米欧の経済制裁を受けているロシアは、トランプ大統領による政策転換に期待をかけている。トランプ大統領がウクライナ危機と米ロの核軍縮をてんびんにかけようとしているのは誤った選択だ。外交の基本を商売のディール(取引)並みに扱うのは危険である。

 トランプ政権は中国への強硬姿勢を鮮明にしている。中国の核心的利益である「一つの中国」にあえて疑問を呈し、台湾問題を遡上にのぼらせている。それを中国との貿易不均衡是正の交渉材料と考えるなら筋違いである。「一つの中国」問題を提起するトランプ政権に対して、習近平政権は空母遼寧のデモ行動など海洋進出の姿勢を強化している。中国の海洋進出はアジア太平洋の緊張を高めるのは事実だ。法と秩序を守るよう日本など同盟国や東南アジア諸国連合(ASEAN)と連携して、中国に強く警告するのが筋である。習近平国家主席が今秋の共産党大会で再任をめざす政治の季節に、台湾問題をからめるのは危険である。

 中国の台頭を鮮明にしたのは、世界経済フォーラム(ダボス会議)に初めて出席した習近平主席が自由貿易の重要性を説き、「貿易戦争は共倒れになる」と警告したことだ。米国第一の保護主義に傾斜するトランプ政権を意識したもので、自由貿易の盟主は米国から中国に移ったのかと思わせたほどだ。