「すべては今日始まる」とはよく言ったものだ。たしかにそうだろう。就任演説で「米国第一」(アメリカ・ファースト)を繰り返すドナルド・トランプ大統領の登場で、皮肉にも「米国の時代」は終わりを告げた。欧州の極右にも通じるこのポピュリスト(大衆迎合主義)大統領は米国の分裂を決定的にしただけでなく、世界中を不安に陥れた。米欧同盟に亀裂が走り、中東危機を深め、中国、ロシアの台頭を許しかねない。トランプ流保護主義は相互依存で成り立つグローバル経済を危険にさらす。トランプ大統領は「世界の悪役」に映っている。第2次大戦後、覇権国の座を維持してきた米国の信頼は大きく揺らいでいる。

1月20日、米ワシントンの連邦議会議事堂前で就任演説を行った後、聴衆に手を振るトランプ米新大統領。(写真:UPI/アフロ)

欧州極右と見まがう排外主義

 トランプ大統領に、全米で異例ともいえる抗議活動が広がっている。反トランプの抗議活動は欧州連合(EU)離脱を決めた英国を含め欧州全域、そして、排外主義の照準になったメキシコなど世界80カ国に連鎖した。

 世界中の批判がトランプ大統領に集まるなかで、トランプ登場に勢いづいているのは、反EUを掲げる欧州の極右勢力だろう。フランスのマリーヌ・ルペン国民戦線(FN)党首をはじめオランダ、ドイツなどの極右の代表はドイツのコブレンツに集結し気勢を上げた。ルペン党首は「今度は我々が目覚める番だ」と意気込んだ。

 みればみるほど、トランプ大統領の「米国第一主義」は欧州にはびこる極右ポピュリストにそっくりだ。大統領就任演説に歴代大統領が掲げた人権や民主主義の理想はまったくなかった。その代わりに「今日から新しいビジョンがこの国を支配する。今日から米国第一主義を実施する」と宣言した。それは、移民、難民の流入を規制し自国優先の排外主義を掲げる欧州極右と通じる思想である。トランプ氏には女性や少数民族などへの差別意識も強く、単なるポピュリストを超えた極右思想の範疇といえる。

米国の分裂が招く大混乱

 トランプ大統領の登場による米国の分裂は深刻だ。トランプ大統領の支持率は40%と異例なほど低く、就任式には60人もの民主党議員が欠席した。就任式への参加者数をめぐる主要メディアとの対立は異常でさえある。指名した閣僚の議会承認も進まず、実際に政策を動かす各省の幹部クラス(ポリティカル・アポインティ)起用も大幅に遅れている。あまりの不人気に、政権入りをためらう専門家が多いとみられる。

 これでは、政権運営が機能不全に陥る恐れすらある。共和党主流にはなおトランプ氏は共和党の大統領ではなく、共和党はトランプ氏に乗っ取られたという意識が強い。

 就任演説でもトランプ氏は大統領選の暴言路線から君子豹変できなかった。中低所得の白人男性など支持層だけを向いており、米国全体を率いる大統領としてふさわしくないと受け取る向きが多い。米国社会の亀裂は深く、修復は簡単ではないだろう。人種、所得階層、地域間の米国社会のあつれきは米国を大混乱に陥れる恐れがある。