株高によって、世界株の時価総額は86兆5300億ドル(約9800兆円)と、世界の名目国内総生産(GDP)の78兆ドルの110%の水準に達した。昨年7月に世界株の時価総額が世界の名目GDPを上回って以来、その差は拡大の一途である。世界全体の債務残高は217兆ドルで、リーマンショック前の1.2倍に膨らんでいる。名目GDP比では330%と膨張している。

 はじけてみなければ、それが「バブル」だったかどうかはわからないとされるが、主要国では、低金利を背景に株価だけではなく、不動産価格の上昇が続いている。債務残高の膨張を伴う資産価格上昇で潜在リスクは増幅されている。

 金融資本主義の肥大化は、世界の2008年のリーマンショックの教訓が生かされていないことを示している。リーマンショックは元を辿れば、2003年のブッシュ政権下でのイラク戦争にあたって、当時の米連邦準備理事会(FRB)のグリーンスパン議長が金融緩和を長引かせたことに原因がある。常に政治とウォール街を意識してきたグリーンスパン議長は、「ブッシュの戦争」に金融政策で「後方支援」したのである。それが金融資本主義肥大化に道を開く結果になった。

 皮肉なのは、中西部の中低所得層の支持を得るため「反ウォール街」を鮮明にしていたトランプ氏がむしろウォール街寄りの政策に傾斜していることだ。リーマンショックを受けて導入された金融規制を緩和するとともに、「低金利が好きだ」と繰り返している。

 金融規制が緩和され、低金利が続くことになれば、金融資本主義はさらに肥大化する可能性がある。それは「ウォールストリート」(金融資本主義)と「メインストリート」(実物資本主義)の落差を広げ、所得格差を拡大することになる。

「政低」がはばむ金融正常化

 問題は、「政低」が金融正常化をはばむ恐れがあることだ。世界の中央銀行は、世界同時好況をもたらした超低金利を是正し、資産バブルへの過熱を防げるかどうかが問われている。

 パウエル次期議長が率いるFRBは2018年には年3回の利上げを想定している。大規模減税を柱とするトランプ税制改革の効き目しだいでは、過熱防止のため利上げテンポを上げる必要に迫られるかもしれない。しかし、「トランプ印」とされるパウエル次期議長がこうした引き締め路線を貫けるか疑問視される。リーマンショックの遠因である「政治配慮」が頭をもたげるとすれば、リスクが蓄積されることになる。

 欧州中央銀行(ECB)はFRBに続いて1月から量的緩和の縮小に動いており、9月には量的緩和を終える方針だ。しかし、利上げには慎重で2019年半ばまで先送りされるとみられている。ユーロ圏経済は予想を上回る好調を続けているが、独り勝ちのドイツとイタリアには大きな落差が残る。イタリアではポピュリズム勢力の台頭が懸念される。ユーロ危機は乗り切ったが、イタリア財務省出身のドラギECB総裁がそんなユーロ圏内の気圧配置を考慮しないはずはない。ECBの本部理事の間で出口戦略の強化を求める声が強まっているのは、ECBの政治配慮に懸念があるからだろう。

 デフレ脱却をめざす日銀は、異次元の金融緩和からの出口戦略すらまともに議論していない。異次元緩和は安倍晋三政権によるアベノミクスの最有力手段と位置付けられてきた。黒田東彦総裁が低金利が続くことによる金融仲介機能への影響で緩和効果がそがれる「リバーサル・レート」に言及しただけで、緩和縮小との観測が流れたが、日銀が「安倍政権下」の中央銀行であるかぎり、出口ははるかに遠い。異次元緩和によって日本の財政危機をいつまで支え続けるか、金融と財政の複合リスクは累積している。

 年初来の世界同時株高に浮かれている場合ではない。「政低・経高」の世界に潜むリスクに着目し、冷静かつ慎重に対応しないかぎり、リーマンショックの二の舞いを招きかねない。