海洋強国をめざす習近平政権は、トランプ氏の対中姿勢を読んで、海洋進出をさらに活発化している。空母「遼寧」が南シナ海での発着訓練を行うなど、示威行動を広げている。旧ソ連製空母を改造した「遼寧」は、かつて大連港で見たことがある。いかにも旧式で専門家の間ではこれで軍事行動は可能かといわれていたが、空母を保有するというデモンストレーション効果はあるのだろう。

 旧尖閣列島周辺での海洋進出も目立ってきている。中国の海洋進出は硬軟両様のオバマ米政権下で本格化し始めたが、トランプ政権の出方しだいでさらに拡大する恐れがある。それは米中関係をいたずらに緊張させかねない。

 中国経済は成長減速の過程で、難題に直面している。トランプ政権から目の敵にされる鉄鋼の過剰生産をどう軟着陸させるかは至難である。アジアインフラ投資銀行(AIIB)の融資だけでは、需要拡大は望めない。成長減速のおありで不良債権問題も深刻化しかねない。資本流出が続けば、外貨準備を取り崩して、人民元を買い支えざるをえなくなる。

 こうしたなかで、トランプ政権が介入主義にもとづいて対中投資の抑制に動けば、中国経済はさらに難題に直面する。それは米国経済を含めてグローバル経済全体にはねかえることになる。

トランプ氏の対中強硬姿勢に、2017年後半の共産党大会で再任をめざしている中国の習近平国家主席は過剰反応する危険がある。「弱腰」と受け止められると命とりとなるためだ。(写真:Feng Li/Getty Images)
トランプ氏の対中強硬姿勢に、2017年後半の共産党大会で再任をめざしている中国の習近平国家主席は過剰反応する危険がある。「弱腰」と受け止められると命とりとなるためだ。(写真:Feng Li/Getty Images)

米中対立を防ぐ日本の責任

 米中対立で最も深刻な打撃を受けるのは、はざまにある日本である。安倍晋三政権にはトランプ政権の誕生を受けて、プーチン・ロシア政権とも組んで、中国包囲網を築こうという狙いが見え隠れする。「PTA(プーチン・トランプ・アベ)」包囲網である。しかし、包囲網による中国封じ込めは危うい選択である。中国の海洋進出に強く警告するのは当然だが、不測の事態を招かないよう慎重な姿勢こそ肝心だ。日米同盟を強化しつつ、偶発的事故を防ぐため中国とのパイプを太くする必要がある。

 いま求められるのは、米中対立を防ぐため米中双方に物申すことである。「国家資本主義」VS「国家資本主義」の対立構造をやめさせることが先決だ。トランプ政権には資本主義、市場経済の原則を踏み外す企業への介入をやめるよう申し入れることだ。NAFTA見直しは避け、TPPに戻るよう粘り強く説得するしかない。

 中国にも国家資本主義からの卒業を求めることだ。国営企業の改革なしに、中国経済の再生はない。人民元を国際通貨にしたいなら、変動相場制の導入など国家資本主義に寄り掛からない大改革が必要だ。

 「国家資本主義」対「国家資本主義」の行きつく先は、保護主義の蔓延によるグローバル経済の崩壊である。保護主義の危険を防ぎ、自由貿易を立て直すには、TPPと東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を結合させるしかない。双方に参加する日本の歴史的使命はかつてないほど重い。



 2017年1月20日、ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任する。トランプ新政権のキーパーソンとなる人物たちの徹底解説から、トランプ氏の掲げる多様な政策の詳細分析、さらにはトランプ新大統領が日本や中国やアジア、欧州、ロシアとの関係をどのように変えようとしているのか。2人のピュリツァー賞受賞ジャーナリストによるトランプ氏の半生解明から、彼が愛した3人の女たち、5人の子供たちの素顔、語られなかった不思議な髪形の秘密まで──。2016年の米大統領選直前、連載「もしもトランプが大統領になったら(通称:もしトラ)」でトランプ新大統領の誕生をいち早く予見した日経ビジネスが、総力を挙げてトランプ新大統領を360度解剖した「トランプ解体新書」が1月16日に発売されます。ぜひ手に取ってご覧ください。

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