あからさまな介入は米企業だけでなく、ついに日本企業にも及んだ。トヨタ自動車のメキシコでの新工場建設を「ありえない」と語り、高関税をちらつかせている。これに対して、トヨタの豊田章男社長が米国内の雇用に貢献している点を強調し、メキシコでの新工場建設を変更しないとしているのは当然だ。合わせて豊田社長は米国において今後5年間で100億ドルを投資する計画を表明し、トランプ政権への配慮もにじませた。

 トランプ氏が主張する北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しが実現すれば、メキシコに進出している多くのグローバル企業のサプライチェーンを分断することになる。それはメキシコ経済だけでなく、米国経済を含めグローバル経済全体に深刻な打撃を与える。米国の雇用拡大どころか雇用悪化を招く結果になるだろう。

 もちろん、NAFTAの見直しは米議会の承認が前提であり、簡単には進まないとみられるが、トランプ氏が引き続き大統領権限を振りかざして、個別企業への介入を強化する恐れは消えない。問題は、トランプ流の介入がメキシコから中国に飛び火する危険があることだ。

対中強硬派そろえるトランプ政権

 第1の経済大国である米国と第2の経済大国である中国の相互依存は、グローバル経済の土台である。それはウィン・ウィンの関係にあるはずだが、トランプ政権は米中間の貿易不均衡をどう是正するかを最優先しているようにみえる。中国の対米輸出は年50兆円であるのに対して、米国の対中輸出は10兆円にとどまる。「輸出は善・輸入は悪」と考えがちなトランプ流からすると、許せない不均衡ということになる。中国を人民元を安値に誘導する為替操作国と位置付けるのもそこからきている。

 トランプ政権の通商布陣は「対中強硬派」で固められている。米通商代表部(USTR)の代表には、ロバート・ライトハイザー氏を起用する。米鉄鋼業界に通じており、中国に対してダンピング(不当廉売)の制裁措置を重ねて求めてきたことで知られる。

 新設の通商政策の司令塔「国家通商会議」のトップに就くのは、対中強硬論で名をはせたピーター・ナバロ米カリフォルニア大教授である。商務長官は著名投資家のウィルバー・ロス氏が起用される。いずれも「管理貿易」を支持している。保護主義の風潮は超大国から広がりかねない。

 通商チームはトランプ氏が主張しているNAFTA見直し、環太平洋経済連携協定(TPP)離脱とともに、強硬な対中戦略を実践するとみられる。メキシコに続いて中国をめぐって、米企業の進出をけん制する恐れがある。米中間の相互依存が崩れれば、グローバル経済の土台が揺らぐことになりかねない。

経済と安全保障の複合危機

 こうしたトランプ氏の対中強硬姿勢に、2017年後半の共産党大会で再任をめざしている中国の習近平国家主席は過剰反応する危険がある。米国の強硬姿勢に対して弱腰と受け止められるのは国家主席として命とりと考えるだろう。

 リスクをはらむのは台湾問題である。台湾の蔡英文総統と電話会談し、中国から反発を受けたトランプ氏は「なぜ一つの中国に縛られないといけないのか」と表明した。中国の核心的利益である「一つの中国」を米中経済関係のけん制材料に使うのは危険なかけである。中国の琴線に触れる台湾問題をあえて持ち出せば、貿易不均衡是正へのおどしになると考えるとすれば、外交音痴のそしりを免れないだろう。