メキシコ・ティファナの国境(2017年)(写真:AP/アフロ)
メキシコ・ティファナの国境(2017年)(写真:AP/アフロ)

 このトランプ大統領の思い込みを変えるのは至難かもしれない。反環境政策は結局、米国産業の国際競争力をそぐことになると説得するしかない。米国抜きのパリ協定は温暖化防止の効果を不透明にする。逆に米国がパリ協定に復帰すれば、温暖化ガスの最大の排出国である中国との間で環境技術をめぐる競争と協調が生まれる可能性がある。

難民・移民を「壁」で防ぐ危険

 難民問題は深刻化するばかりである。国連の難民保護機関、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2017年の難民は6850万人にのぼる。

 北アフリカや中東から押し寄せる膨大な難民を欧州連合(EU)だけで引き受けるのは、とても無理な情勢である。難民問題はEU内で極右ポピュリズム(大衆迎合主義)をはびこらせ、政治危機を招いている。

 EUの盟主であるメルケル独首相も「100万人受け入れ」という寛大な難民政策が批判を招き、政治基盤を弱体化させた。その一方で、ドイツは移民拡大には取り組んでいる。EU域外からの移民を業種を問わず受け入れる新移民法を閣議決定した。労働力維持のために移民受け入れは、むしろ積極化する方針だ。

 これに対して「移民の国」であるはずの米国ではトランプ大統領の反難民・移民政策で揺れている。メキシコ国境の壁建設はその象徴だ。壁建設にこだわるトランプ大統領と中間選挙で下院で多数党になった民主党との対立は年を越えても収束できず、政府機関の閉鎖に終わりがみえない。

 たしかに不法移民の急増は様々な問題をはらむが、「移民の国」であったからこそ、多様な文化が融合した。米国という「新世界」をめざした移民たちによって米国は発展し、覇権国家にまでなった。ドイツはメルケル首相の寛容さに足を取られたが、米国はトランプ大統領の非寛容さに足をすくわれる恐れがある。

 難民問題は、アフリカ、中東だけでなく、ロヒンギャ難民や中米からのキャラバンなど世界のあちこちに広がっている。国連やEU任せにせず、G20でも真正面から取り組む責務がある。

資本主義を鍛え直せ

 G20に求められるのは、資本主義の危機にどう対応するかである。1%の富裕層と99%の層とが対峙する格差は異常である。GAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)という巨大IT(情報技術)企業の独占化を放置したのは「市場の失敗」であり、「政府の失敗」だった。

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