手腕が試される安倍晋三首相(写真:つのだよしお/アフロ)
手腕が試される安倍晋三首相(写真:つのだよしお/アフロ)

 気になるのは、日本の立場のあいまいさである。最大の同盟国である米国の「核の傘」の下にいるからだろう。中国を含まないINF廃棄条約そのものに難点があるという見方も潜む。しかし、日本は唯一の戦争被爆国である。核軍拡競争の危険に、毅然として警告するのは当然だ。それには、何より核兵器禁止条約に加盟しなければならない。核保有国と非保有国との橋渡し役になるというあいまいな外交姿勢を改めて、唯一の被爆国としての地球責任を果たすことが求められる。そうして初めて米ロ中に真正面から核軍縮を要求することができる。

G20首脳を広島に招け

 「核兵器なき世界」を目指すにあたって幸運なのは、安倍晋三首相がトランプ大統領ともプーチン・ロシア大統領とも個人的な信頼関係を築いていることだ。「米国第一主義」で世界から非難を浴びるトランプ大統領に近すぎるのは問題があるし、クリミア併合を強行したプーチン大統領と会談を繰り返すのは疑問である。しかし、ここはこの首脳間の信頼関係を生かすしかない。中国の習近平国家主席とも交流を深めようという矢先であり、関係強化が期待される。

 米ロにはINF廃棄条約の維持はもちろん新戦略核兵器削減条約(新START)の継続も呼び掛けるべきだ。米ロが核軍縮を実行するなかで、ひとり核増強に動いた中国には強く警告し、核軍縮を改めて要求すべきだ。米朝首脳会談による「朝鮮半島の非核化」は「核兵器なき世界」に結び付けてこそ意味がある。G20首脳会議には、核保有国の英仏そしてインドの首脳も参加する。米ロ中と同様に核軍縮を求めるべきである。 

 核廃絶への政治的意思を固めるうえで、G20首脳の広島訪問は有効だろう。核兵器使用がいかに悲惨な結果をもたらすか首脳は自らの眼で知るべきだ。安倍首相には、オバマ前米大統領の広島訪問を一時的な成果にとどめず、G20全体に広げる責務がある。

トランプ政権にパリ協定復帰求めよ

 地球温暖化は「不都合な真実」(ゴア元米副大統領)どころか「今そこにある危機」である。海水温の上昇による異常気象は地球をおおう。このままでは、猛暑により夏季五輪の開催もできなくなりかねない。環境制約が高まれば世界経済に直接響く。環境難民など国際政治をも揺るがしかねない。

 温度上昇を2度未満に留めようというパリ協定は、温暖化防止の基本となる国際的枠組みだ。そのパリ協定から離脱したトランプ大統領は「地球の敵」になっている。石炭など環境規制の緩和を打ち出したのは選挙基盤を固めるためだが、それ以上に「人間の行動が温暖化の理由とは思わない」と信じきっているからだろう。米国内のキリスト教保守派の一部にある反環境・反科学の姿勢である。

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