人間自身がAIと同様の能力を持つことも

松本:研究者としてのお気持ちはよく理解できます。しかし、私としては「それまで待てない」という気持ちの方が強いのです。人間社会は今や色々なところで行き詰まっており、過大な格差を生んでいる不条理な仕組みが存在し、相互不信が生み出す憎悪が世界中の至るところで増大しているように思えます。こういうことが原因になって、ちょっとした行き違いで人間社会が破滅に向かう前に、AIの力で何とかしてこの状態を変える必要があると私は思うのです。

 それから、AIは人間でなくとも、人間の気持ちをくんで、それによって人間に信頼されることはできますよ。人間がどういう時に幸せになり、どういう時に不幸になるのかを、AIは統計的な知識として把握することができますから、AIの中に「人間を幸せにするのがAIの仕事」という認識がしっかりと埋め込まれている限りは、これは可能です。

 さらに言えば、AIはそういう統計的な知識を生かして、芸術作品を作り出すことだってできると私は思います。さすがにそこまで行くと、人間は評価する前にしらけてしまうかもしれませんが、人間の気持ちをくんだ商品やサービスを供給する程度のことなら、「おお、よく分かってるじゃあないか」という前向きの評価が得られるだけで終わるでしょう。

 人間は自分自身が有機物ですから、無機的なものには何となく違和感を持ち、無意識のうちに有機的なものを求めるのでしょうが、有機物のもつ予測不可能の怖さを考えれば、その程度の欲求は我慢すべきだと私は思っています。

苫米地:人間と同じような予測不可能性を持った超能力のAIの存在を恐れる気持ちは分からないではありませんが、AIが無機質な存在で終わってしまうのは少し残念な気もします。また、人間がAIに主役の座を譲り渡すのに釈然としない人も多いでしょう。むしろ、人間がAIを自らの中に装備することも考えて良いのではないでしょうか? これから生命科学や大脳生理学がさらに飛躍的に発展していけば、寿命200年の限界を超える脳細胞も作り出せるでしょう。また、人間の身体の中にそのために必要なチップを埋め込んでおけば、目や耳のような感覚器官を通さずとも、人間の脳は直接クラウドとつながって、AI並みの能力を持つことができます。

松本:確かに、人間の脳が持っている一部の能力を、無理をして無機質のコンピューターに持たせようとするより、既に出来上がっている脳の仕組みを利用するほうがはるかに効率的だし、機能もさらに拡大できるという考えはあるでしょう。クラウド・コンピューティングの威力が見えてくる前には、私もそのように考えていました。

 しかし、人間自身がAI化すべきという考えには私は賛同できません。どんな怪物に変身するかもしれないという恐怖もさることながら、百億人にも達すると思われる将来の地球人口の中から、どのようにしてそういう「超人になる人」を選び出せば良いかが分からないからです。そんなに多くの超人を作り出すコストについても、見当がつきません。

苫米地:まさに、そのようなごく一部の特権階級が全人類を支配する世界がやってくる可能性はあります。人間の煩悩には歯止めがないので、必ずそういうことを進める大金持ちが出てきます。今の世界の戦争を引き起こしている大金持ちたちがいい例です。AIを巡る問題の難しさは、技術的なところより、哲学的、倫理学的、社会学的なところにあるのかもしれません。人間の価値をどこに見るかということについても、我々は、あまりにも型にはまった見方をしていないか、反省すべきでしょうね。

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