量子コンピューターがシンギュラリティー実現への一里塚

松本:確かに私もそう感じ始めています。私は、ネットワーク上の多数のコンピューターで並列処理するクラウド・コンピューティングを使えば、消費電力の問題も、メモリー領域の問題も、抜本的に解決できるだろうと考えてきました。しかし、色々な課題に取り組んでいるうちに、桁違いの計算能力の必要性が徐々に見えてくるかもしれないし、消費電力もやはり抜本的に減らさねばならないだろうと今は感じています。従って、量子コンピューターの開発を加速することがどうしても必要だという考えが強くなっています。現実にグーグルもそう考えている節がありますね。

 量子コンピューターの開発については、クラウドに絶対零度の環境を作れば、これまでに考えられていたものよりは相当早く実用化が進むのではないかと思うのですが、いかがでしょうか? 10年以内は無理ですか?

苫米地: 現在の技術開発の速度にもう一つブレークスルーが加わればあり得ることです。しかし私は、それだけでAIが人間と同等になるのはまだ無理だと思っています。人間の情報処理は決して脳の中で完結しているわけではなく、例えば、遺伝子情報などによって人間の細胞が作られる場所を制御する情報は、物理空間とは別の場所にある「生命場」と呼ばれる空間にあるという考えがあります。そして、この場で行われていることは、電子レベルの処理ではなく、恐らく量子レベルの処理でしょう。そのからくりが完全に解明されなければ、AIが仮に量子コンピューターレベルの処理能力を持ったとしても、プログラミング自体ができません。

松本:おっしゃることはよく分かりますが、私は、AIには人間と同等になることを求めるべきではないという考えです。まず、人間がAIを開発する目的が、人間の生活をより良いものにし、破滅から救うことだけなら、AIは人間の持つ能力の一部を代替し、それを拡大すればよいだけであり、全てにおいて人間と同等になる必要はありません。次に、もしAIが人間と同等になれば、人間の弱みも引き継いでしまうし、どんな怪物に成長していくかも分からなくなってしまいますから、大きなリスクが生じます。

苫米地:人間の能力の一部をAIで代替するだけなら、比較的簡単でしょう。しかし、私たち基礎研究者は便利なツールをつくることに興味があるのではなく、人間の認知を解明し、それを計算機上に再現することに興味があるのです。それがAIです。そういうAIは人間の気持ちもくむし、人間にも信頼される存在になります。なぜならあらゆる意味で「人間」だからです。

次ページ 人間自身がAIと同様の能力を持つことも