自動運転技術や投資運用など、AI(人工知能)の実用化が注目を集め、「将来はAIに仕事を取られてしまうのでは?」という悲観的な見方も広がりつつある。元ソフトバンク・モバイル副社長の松本徹三氏は、情報通信コンサルタントとして海外の著名業界人などと議論を交わし、「AIが人々の生活に想像を絶するほどの変革をもたらす“シンギュラリティー”の実現への道は10年以内に開ける」と確信したと言う。本コラムでは迫り来るAI時代に備え、日本がAIを経済成長に結びつけるためのヒントを、AIに詳しいキーマンとの対談形式でお伝えする。最終回となる第4回は、1980年代から米国で最先端のAI研究に携わってきた計算機科学者(カーネギーメロン大学博士)の苫米地英人氏に、10年後を見据えたAIと人間の関わり方について聞いた。
松本:苫米地さん、初めまして。苫米地さんは、1980年代の頃からAI関連の研究に取り組んでこられたとお聞きしており、お目にかかるのを楽しみにしていました。
苫米地: 私は1985年にフルブライト留学生としてイエール大学大学院に留学し、AIの父と呼ばれるロジャー・シャンク教授の下で、AIという研究分野が認識されたダートマス会議(1956年)の時代に立ち上げられた初期のAIプロジェクトに参加していました。その後、コンピューター・サイエンスの研究で全米の頂点にいたカーネギーメロン大学大学院に転入し、自然言語処理やAIに加えて、人間の脳の神経回路の働きを数学モデルで表現したニューラルネットワークの研究に携わって、世界で初めて音声認識・合成技術を使った英語から日本語への翻訳システムを開発しました。
また、最近ではAI技術の実用化の例として自動運転がよく取り上げられますが、カーネギーメロン大学では1980年代に自動運転車の開発をほかに先駆けて既に終えていました。AIと聞くと近年に技術開発が進展してきた印象を受けるかもしれませんが、実はニューラルネットワークのモデリングやプログラミングなどの技術開発は80~90年代に終わっており、近年はそれらを駆動するコンピューターが高速化されたことによって実用化が進んでいるのです。

松本:コンピューターの能力は、一言で言えば過去30年でどのくらい変わり、これから10年とか20年とかの間にどのくらい変わりそうですか?
苫米地: 85年頃は3層構造のニューラルネットワークをいくつか並列に走らせることで音声認識を実現していましたが、30年たった今では8層構造のニューラルネットワークを使うディープラーニング(深層学習)のシステムを、当時の1000万倍の処理速度のコンピューターで動かしています。私は94年にジャストシステム基礎研究所で6000万円で購入したコンピューターを使っていましたが、それと比べても現在のコンピューターは100万倍高速です。現在でもAIシステムの開発を続けていますが、15年後の10倍高速になったコンピューターなら稼働できると期待しています。
しかし、それでも、人間の脳と比べると、コンピューターのエネルギー効率はまだまだとんでもなく低いですよ。人間の脳は1MHzの周波数(サイクル)で動いていますが、同じ計算を100MHzのペンティアムを搭載したコンピューターでやれば、原子力発電所一個分ぐらいの電力が必要という試算があります。そもそも、人間の脳の働きの一部は現在のコンピューターでもできるので、人間の脳も似たようなものだと思っている人が多いようですが、とてもそんなものではないでしょう。従来のコンピューターよりはるかに高速に計算できる量子コンピューターのレベルでないと、比較すること自体が意味をなさないと思います。
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