AI開発に巨額の国費を投入する米国

松本: 米国政府自体も、巨額の国費を投じて、この分野の研究開発に主導的な役割を果たそうとしていますね。現在のインターネットのベースになったARPANETとAIを融合させる「DARPA」とか。

村上: 2012年にはホワイトハウスの科学技術政策局(OSTP)がビッグデータに関する「R&Dイニシアティブ」を発表していますが、その予算規模は2億ドルを超えるものでしたから、その本気度は相当なものです。

松本: それに比べて、日本政府の取り組みはどうですか?

村上: うーん。問題意識は持っていると思いますが、どこまで踏み込んでくれるかはまだ分かりません。

松本: 村上さんが委員として入っておられる総務省の「AIネットワーク社会推進会議」の動きはいかがですか?

村上: AIの研究開発についての基本姿勢を定める「8原則」というものを、取りあえず策定しました。

松本: ほほう。そうですか。それは興味深いですね。

総務省はAI開発の8原則を策定

村上: ちょうど良い機会ですから、その骨子を披露しましょう。

  1. 透明性の原則
  2. 利用者支援の原則
  3. 制御可能性の原則
  4. セキュリティーの原則
  5. 安全保護の原則
  6. プライバシー保護の原則
  7. 倫理の原則
  8. アカウンタビリティー(説明責任)の原則

どう思われますか? 

松本: すべてにつきその必要性は理解できますし、基本的にはどこにも異論はありません。しかし、抽象論に留まっている間はいいですが、具体論になるとそんなに簡単にはいかないと思います。例えば、「プライバシーの保護」といえば、総論として反対する人は誰もいないでしょうが、どこまでを守られるべきプライバシーと決めるかという議論になると、話がまとまらないと思います。「倫理の原則」となると、これはもう、憲法を決めるより難しくなりますよ。

村上: 確かに、それは言えますね。

松本: もっと大きな懸念は、どうやって各プレイヤーにこの原則を守らせるのかということです。日本政府がこういう原則を決めても、強制力はないのですから、強大な多国籍企業や独裁国家では、彼ら自身が原則を定めて好きなようにやるでしょう。日本人の研究者や日本企業だけが、過度に慎重になって手が縮んでしまっても困ります。

村上: 解決策がありますか?

松本: 現状では、全くないと思います。核兵器の開発は、第二次世界大戦の最中から直後にかけて各国がそれぞれ勝手にやってきて、「これ以上の拡散は問題だ」という意識が芽生えたのは、ずっと後になってからでした。ですから、現時点でも、保有国と非保有国では全く話がかみ合わないのではないでしょうか。しかし、AIについては、遺伝子の操作技術と同様、すべてはこれからの話ですし、私には核兵器以上のインパクトがあるように思えるので、すぐにでも国際的な枠組みについて話し合いを始めるべきだと考えています。