自動運転技術や投資運用など、AI(人工知能)の実用化が注目を集め、「将来はAIに仕事を取られてしまうのでは?」という悲観的な見方も広がりつつある。元ソフトバンク・モバイル副社長の松本徹三氏は、情報通信コンサルタントとして海外の著名業界人などと議論を交わし、「AIが人々の生活に想像を絶するほどの変革をもたらす“シンギュラリティー”の実現への道は10年以内に開ける」と確信したと言う。本コラムでは迫り来るAI時代に備え、日本がAIを経済成長に結びつけるためのヒントを、AIに詳しいキーマンとの対談形式でお伝えする。第3回は、元グーグル日本法人社長の村上憲郎氏に日本政府を中心としたAI技術開発の取り組みについて聞いた。

松本: 村上さん、お久しぶりです。世界のAI開発において、現時点で最も先進的な位置につけていると思われるグーグルのご出身で、総務省の「AIネットワーク社会推進会議」の委員も務めておられる村上さんに、10年後のAIのあり方について議論を吹きかけるというのですから、私としても今日は少し緊張しています。

村上: いやいや、松本さんのように、この分野に何のしがらみも持っておられないほうが、自由に発想の翼を広げられるので、羨ましいという気持ちもありますよ。

「日本が、現在検討しているAIの研究開発原則をさらに掘り下げ、国際社会に提唱していくこともあっていい」(村上憲郎 元グーグル日本法人社長)

松本: そうですね。この分野に造詣の深い方々は、常に「今すぐ何ができるのか?(何をするのか?)」ということを問われますから、あまり思い切ったことは言いにくいでしょうね。

村上: しかし、技術開発というものは常にそうですが、ずっと先のことまで考えていないと、今すぐにやることも間違えますから、こういう議論を吹きかけられることは、必要であり、有難いことでもあると思っています。

AI関連の研究開発で先行するグーグル

松本: かつて私は、グーグルが「世界中に存在するすべての書籍をデジタル化して、一つのデータベースとして保存し、かつ利用する」と宣言したのを聞いて、深く感動しました。変な抵抗勢力があって、この構想は順調には進んでいないと理解していますが、こういうことを一つ一つ積み上げることが、AIが人々の生活に想像を絶するほどの変革をもたらす“シンギュラリティー”を実現するための必須条件の一つだと思っています。

村上: 確かに、グーグルには常に一つの確固たる哲学があり、すべてのことがこれに根ざしているところがありますね。

松本: AIの開発を志す誰でもが使えるソフトウェア・ライブラリーとして、オープンソースの「TensorFlow」を発表したのも画期的でしたし、「アルファ碁」で名を上げたディープマインド社を傘下に収めたことも衆目を集めました。

村上: AIを支えるビッグデータの整備や、機械学習、ディープ・ラーニングのソフト開発支援だけでなく、コンピューティング・パワーを飛躍的に高める量子コンピューターの開発にも、グーグルは意欲的に取り組んでいます。2013年にはNASAのエイムズ研究所と共同で、「Quantum Artificial Intelligence Lab (量子人工頭脳研究所)」というものも立ち上げています。