9条2項を残す現実的妥協

神学論争の源はまさに9条2項に対する政府解釈ですね。芦田修正を採用しないため、侵略戦争のための戦力に限らず、戦力一般の保持を禁じるとしています。それゆえ、自衛隊が「自衛のための必要最小限度の実力」となり、「戦力」か否かが論争の的になる。

 9条2項を改める、もしくは削除すれば、この問題を解消できます。

長島:私もずっとそれを考えてきました。しかし、2014年に安全保障法制をめぐる議論が交わされる中で、9条1項と2項が深く広く国民の間に定着していることを改めて思い知らされました。左派の人だけでなく多くの大衆が、戦争に巻き込まれることを真剣に憂慮したのです。

 9条1項と2項はなぜ定着したのか。元々は、第二次世界大戦の敗戦が生み出したトラウマでした。あの戦争がもたらした惨禍はあまりに悲惨だった。そして、このトラウマが戦争を経験した世代だけでなく、次の世代、その次の世代へと引き継がれた。

 このトラウマを吹き飛ばし、9条1項と2項を変えるのは並大抵のことではありません。

 自衛隊と「戦力」との関係を完全に明確にすることができないにもかかわらず、1項と2項を残したのは、こうした状況を前にしての「現実的妥協」です。1項と2項は、国際ルールを破った戦前・戦中の日本には二度と戻らない、という国際社会への誓いでもありますし。

安保法制の議論が生み出した喧噪

3項に入れる文言を「武力行使の三要件」、いわゆる武力行使の旧三要件から取ったのはなぜですか。

【旧三要件】

(1)わが国に対する急迫不正の侵害があること

(2)この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと

(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

 安倍政権は2014年7月の閣議決定(以下、2014年閣議決定)で、集団的自衛権の限定行使を許容。これに基づき、武力行使の新三要件を定めました。

 これまでうかがったご趣旨は、新三要件でも表わすことができます。集団的自衛権の限定行使が可能なこともより明示的に表現しています。

武力行使の新三要件

(1)わが国に対する武力攻撃が発生したこと、又はわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること(存立危機事態)

(2)これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと

(3)必要最小限度の実力行使にとどまること

長島:安保法制をめぐる議論は非常に大きな喧噪を生み出しました。

国会の周囲はデモで大変なことになりました。

長島:そうです。この喧噪からいったん逃れて、2014年閣議決定がなされる前の状態に戻して議論したかったからです。そうでなければ、9条改正に懐疑的な方々を議論に巻き込むことはできないでしょう。