立憲主義の維持と外的要因の変化への対応の狭間

山尾さんがおっしゃる「憲法で政府の権力を縛る」のは立憲主義の原則です。しかし、縛りが厳しすぎると、外的要因の変化に対応するのが難しくなります。例えば安倍首相は2014年7月、集団的自衛権を限定的に行使できると憲法解釈を改める閣議決定をする際に、北朝鮮による核・ミサイル開発の進展など、外的要因の変化を理由に挙げました。

山尾:それは重要なポイントですね。切り分けが必要です。憲法典には、揺るがせにできない原理原則を書き込む。一方、時代の変化によって変わりゆく手段に関しては通常の法律で定める。

 これまでにお話しした、行使できる自衛権を個別的自衛権に限定することは、私は原理原則として憲法典に書き込むべきことと考えます。そして、海外においては、別の手段をもって貢献する。これは戦後の日本の防衛策のキモだったのではないでしょうか。

 内閣、国会、裁判所が自衛権の行使をコントロールすることも同様に、憲法典で定めるべき事項です。

 一方で、最近注目されている教育の無償化は、私は法律で定めるべき事項と評価しています。現在の人口構成において、世代間の公平を保つための手段の一つですから。人口の構成が変われば、教育費の負担のあり方も変わります。

フランスは議員の質問時間を改憲議論で取り上げた

山尾さんは、衆議院の憲法審議会*に立憲民主党の会派の代表として席を占めています。ここでの議論はこれからどのように進んでいくのでしょうか。各党が、改憲案を持ち寄るところから始まるのですか。

*:憲法改正の原案を作成したり、改正の発議や国民投票に関する法律案を審査したりする機関

山尾:「どの条文なら変えやすいか」「どの項目なら説明しやすいか」という観点からの安易な改憲案をいくら持ち寄っても、あるべき憲法議論はスタートできません。スタートラインは、「権力の分立・均衡」と「人権の保障」という憲法の機能・テーマが、現代において十全に果たされているのか否かです。果たされていない項目があるならいかにそれを回復・強化できるのか、そしてその解決策は憲法典を改正する事項なのか法律を改正して実現する事項なのか。思考の順番を正しく、与党に先行して提示すべきだと思います。

 私の目指す「立憲的改憲論」は、目先の「対案」「条文案」を示すことではなく、憲法論議の作法と選択肢を国民に提供し、草の根の憲法議論の土台を提示するものでありたいと考えています。

 こうした整理をする中で、憲法典に盛り込む事項と、一般の法律に反映すべき事項を切り分けることができます。先ほど外部環境の変化との関係についてお話しした通りです。

 面白いエピソードがあります。いま国会で野党の質問時間をどうするかが注目を集めています。フランスがサルコジ政権だった2008年、改憲の議論をしている中で、同じく野党の質問時間が俎上に上りました。つまりフランスは、改憲の議論の中の議題として、野党の質問時間を取り上げたのです。その結果、この問題は議員規則に反映されることになりました。

 これから憲法改正に関する議論を進めるに当たって、私は自民党に次のことを望みます。9条に「自衛隊」と明記するならば、「集団的自衛権を行使できる自衛隊」と記して正々堂々と議論する。

 そうすれば、集団的自衛権を行使することの是非を国民に問うことができる。ただ「自衛隊」とだけ書き、災害救助で活躍する自衛隊を国民にイメージさせ、実は集団的自衛権も行使できる自衛隊を憲法に位置づけるやり方は姑息です。「集団的自衛権を行使できる自衛隊」と記せば、安全保障法制についての議論もよみがえるでしょう。

 それに現行の9条をそのままにして、その後にただ「自衛隊を置く」とするならば、この「自衛隊」が9条2項が禁じる「戦力」なのかそうでないのか分かりません。行使できる自衛権が個別的自衛権のみなのか、集団的自衛権も行使できるのかも分かりません。このような改憲案は、国民意思による権力統制という憲法の機能をむしろ阻害するもの。立憲的改憲とは真逆に位置づけられる提案であり、賛成できません。

■変更履歴
3ページに脚注を追加しました。「自衛隊が関与する事件は自衛官でないと判断できないから、裁判官や検事、弁護士を自衛官が務める」について。[2017/11/24 14:40]
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