ずいぶん、細かい規定が必要ですね。

木村:現在、決められているルールを変えない前提で、これを可能にする条項を憲法に設けるならば、詳細な規定が必要でしょう。

例えば、憲法の規定は最小限に抑える。これとは別に“防衛基本法”を定めて、詳細はそちらで規定する方法は取れませんか。

木村:基本法であれ、法律は憲法の下にあるもの。法律を変えれば内容を変えられるので、その規制力は憲法より弱くなるでしょう。

 個別的自衛権に関する規定を設けるだけでもかなり複雑です。集団的自衛権に関する規定はさらに慎重にデザインしなければなりません。

木村さんは、集団的自衛権は他の国を守る「他衛権」だとされています。これは、なぜですか。国連憲章51条は、集団的自衛権の内容を定義していません。

木村:国際司法裁判所が「ニカラグアに対する軍事的活動事件」*をめぐって1986年に下した判決から明らかでしょう。この判決は、集団的自衛権を行使するためには、守られる側(この場合はエルサルバドル、ホンジュラス、コスタリカの政府)からの要請が必要であると指摘し、米国の主張を退けました。

*:米レーガン政権と、ニカラグアの親社会主義サンディニスタ革命政権が対立。米国は、ニカラグアの空港・石油施設への攻撃、反政府勢力コントラへの軍事援助などを実施。一方、ニカラグアはエルサルバドル、ホンジュラス、コスタリカの反政府勢力に武器を援助するなどした。ニカラグアは米国の行為を違法として国際司法裁判所に提訴。米国は、ニカラグアがエルサルバドルの反政府勢力を軍事的に支援したことに対して、集団的自衛権を行使したと主張した。

 自衛権は、行使するか否かを自国の判断で決めるものであるべきです。「要請が必要」ならば、行使するか否かを判断するのは被害国、すなわち他国です。自衛権の行使について他国が判断するというのはおかしいでしょう。従って、集団的自衛権は他衛権であると考えるべきです。

なるほど。そうなのですね。

集団的自衛権をめぐる改憲は安全保障法制に命取り

木村:国民の意見は今、大きく3つに分かれていると思います。①は護憲派。憲法改正を進めれば武力行使の規律が弱まる可能性がある、だから変えるべきではないと考える人たち。②は、個別的自衛権は行使できると明記する、いっぽう集団的自衛権の行使には反対なので、これは行使できないと明記しようというグループです。現状より、範囲を明確に規定した方が規律力が強まるという意見ですね。最後の③は、個別的自衛権はもちろん明記すべきだが、それに加え集団的自衛権の行使を可能にするために、それを明記しようという人々です。

 それぞれの立場が全体の3分の1ずつを占めると仮定して、「個別的自衛権までは行使できる」との条項(先ほどの第1投票)を国民投票にかけるとしましょう。②と③のグループが賛成するので可決できます。次に「集団的自衛権は行使できる」という条項(先ほどの第2投票)を諮ると、①と②のグループが反対するので否決されます。

 これは安倍政権にとって大問題です。2015年の安全保障法制の集団的自衛権や武器等防護・後方支援の部分が国民投票によって否定されることになりますから。

安倍政権は現行の9条はそのまま残し、「自衛隊の存在を明記する条文を加える改正を目指す」としています。木村さんの指摘を踏まえると、憲法9条の改正は、安倍政権にとって容易ではないことが分かりますね。