集団的自衛権の行使は政策の範疇
安保法制懇の報告書提出から安保法制の審議・成立まで、集団的自衛権が注目を集めました。改憲案Aで集団的自衛権について規定する考えはありませんでしたか。
西:集団的自衛権について憲法で規定する必要はないと考えます。個別的自衛権も集団的自衛権も、先述したように、国連憲章51条で各国がもっている「固有の権利」です。保持していることも、行使できることも自明です。
ただし、解釈上保有しているといって、何でもかんでもできるわけではありません。どのような場合に、どの程度の集団的自衛権を行使するかは、それぞれの国が憲法なり、おかれている状況などにもとづいて判断することになります。わが国では、新しく制定された平和安保法制によって、武力行使の新三要件という歯止めのもとで行使されることになったわけです。
集団的自衛権の行使を認める新三要件
①密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある(存立危機事態)。
②我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない。
③必要最小限度の実力行使にとどまる
それまで政府は、集団的自衛権は一切行使できないという立場をとってきました。政府は「集団的自衛権の行使は必要最小限の自衛権の行使を超える」と無条件に解釈していました。これはおかしなことです。わが国の防衛のためにともに行動している米軍防護を目的に、「必要最小限の自衛権の範囲を超えない」集団的自衛権の行使もあり得ます。安保法制懇の報告書で指摘したところです。
新三要件は歯止めとして適切なものでしょうか。
西:これまでゼロだったものを、武力行使の新三要件の範囲まで行使可能にしたという意味で、価値があると考えています。
7月4日に、北朝鮮がICBM(大陸間弾道弾ミサイル)の実験を断行しました。米国本土を射程に収めた可能性が高まっています。このミサイルが日本の上空を越えて米国領土(グアム、ハワイ)に向けて飛んでいく時に、日本が何もしないという選択肢はとり得ません。もしそうすれば日米同盟は見直しを迫られますし、国際社会から冷笑されるでしょう。
国家緊急事態を憲法で定めよ
西さんは、国家緊急事態条項の必要性を説いておられます。改憲案Aにこれを盛り込むお考えはありますか。
西:今回は自衛隊の位置づけを明確にすることが狙いだったので除いてあります。加えるのが適切です。
国家緊急事態とは、外部からの武力攻撃、内乱、組織的なテロ行為、世界的な経済恐慌、大規模な自然災害、重大なサイバー攻撃など、平常の体制では対応できない、国家的規模の緊急事態をいいます。これにどう対処するかは、憲法で定めるべき事項です。
東日本大震災などを経験して次の問題点が浮かび上がりました。
(1)司令塔をいつどのように立ち上げるか。
(2)司令塔にいかなる権限を与えるか。
(3)食料品や石油などの生活必需品をいかに確保するか。
(4)居住の自由や移動の自由、財産権の保障に対する制限など人権制約はどこまで許されるか。
とくに(4)は憲法上の問題です。人権の一時的制約と国家の安寧、国民の生命、財産の保護とのバランスをどう図るか、憲法上、注意深い規定を構築する必要があります。
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