超憲法的な措置を防ぐ

 まずは政令で迅速に対応する。しかし、政令はあくまで政令なので、事後に国会の承認を得る。

 緊急事態条項がない場合を考えてみてください。政府は、法律のないまま、国民の生命、身体及び財産を保護する措置を講じなければなりません。何もしなければ憲法13条が定める国の義務を果たさないことになります。法令上の根拠のない措置は超法規的、超憲法的な措置になってしまう。緊急事態条項は憲法秩序を守るための手段でもあるのです。

日本国憲法 第13条

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

緊急事態条項は、13条にある「公共の福祉」を維持するための措置というわけですか。

西:そういうことです。憲法の条文は体系的に結びついているものです。

自民党改憲本部の現行案は政府に、政令と財政支出の権限を与えています。これは必要十分なものでしょうか。

西:この二つは不可欠ですね。加えて、地方自治体の首長に対して必要な指示を出せるようにすることが考えられます。緊急事態には権限を集中し、統一的な行動をとることが大事です。

政令の範囲を限定する必要はありませんか。

西:この案は「国民の生命、身体及び財産を保護する目的」に限定しています。適切といえるでしょう。

 「○日以内に国会の承認がない場合には、その効力を失う」としているので歯止めがかかっているといえるでしょう。「○日以内」と定めている点が肝心です。仮に「事後」といった表現だと、承認されない事態を、政府が引き延ばす懸念がありますから。

国民の権利を制限することに抵抗が強いですね。

西:これについては「市民的および政治的権利に関する国際規約」に照らして考える必要があります。国連加盟国に対して、基本的人権を保障するよう義務づけている約束事です。この規約は4条において次のように定めており、緊急事態における人権の制限を認めています。

市民的および政治的権利に関する国際規約 第4条

 国民の生存を脅かす公の緊急事態の場合において、その緊急事態の存在が公式に宣言されているときは、この規約の締約国は、事態の緊急性が真に必要とする限度において、この条約にもとづく義務(注:基本的人権の尊重)に違反する措置をとることができる。

 ただし、その措置は、当該締約国が国際法にもとづき負う他の義務に抵触してはならず、また人種、皮膚の色、性、言語、宗教、または社会的出身のみを理由とする差別を含んではならない。

 この規約は、人権に一時的に制限をかけることを認めると同時に、緊急事態においても制限してはならない人権を定めています。したがって、加盟国はこの規約の定めを超えて人権を制限することはできません。自民党の現行案はこの4条を侵してはおらず、問題ありません。