自民党の憲法改正推進本部が「緊急事態条項」の大枠を固め、3月25日に開かれる党大会に諮る意向を示している。そもそも、緊急事態条項はなぜ必要なのか。今回の案に問題はないのか。憲法学者の西修・駒澤大学名誉教授に聞いた。(聞き手 森 永輔)

西さんは、自民党の憲法改正推進本部の現行案をどう評価しますか。

「大規模な震災」等に係る規定案

第○条
大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定又は予算の議決を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、あらかじめ法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定し、又は財政上の支出その他の処分を行うことができる。

(2)前項の政令又は処分は、○日以内に国会の承認がない場合には、その効力を失う。

西 修(にし・おさむ)
駒澤大学名誉教授。1940年、富山県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、同大学院政治学研究科修士過程および博士課程修了。政治学博士、法学博士。専攻は憲法学、比較憲法学。メリーランド大学、プリンストン大学、エラスムス大学などで在外研究。第1次・第2次安倍内閣の安保法制懇で委員を務めた。主な著書に『いちばんよくわかる! 憲法9条』『世界の憲法を知ろう―憲法改正への道しるべ』など(撮影:菊池くらげ)

西:この案は緊急事態の範囲を「大地震その他の異常かつ大規模な災害」に限定しているのが特徴です。本来は外部からの武力攻撃(戦争)や内乱、組織的なテロ行為、サイバー攻撃などを含めるべき。しかし国民の間には、憲法9条2項を削除するのと同様に、武力攻撃事態を想定することに抵抗がある。この点に鑑みて、範囲を絞ったのでしょう。東日本大震災を経験したこともありますし。

 その他の点についても憲法上は何ら問題ないと考えます。

「大地震その他の異常かつ大規模な災害」とは何を指すのでしょう。

西:一般的には東日本大震災級の震災や、今後起きる可能性が指摘されている南海トラフ地震など自然災害が想定されます。テロなどの人災は含まれないと考えます。

西さんはかねてから、緊急事態条項の必要性を訴えてきました。これが必要な理由として、阪神・淡路大震災や東日本大震災の時の混乱を挙げています。どんな不都合が生じたのでしょう。

西:いちばん大きかったのは財産権の問題です。例えば、津波でクルマが流されてきた。しかし、所有者が分からないので撤去できない、ということがありました。ご遺体の処置に困ることもあった。ご家族の元に届けることができればよいのですが、破損が激しいとどなたか特定できない場合がある。

災害対策基本法が「災害緊急事態」を定めているので、それで十分という議論があります。例えば、特に不足している生活必需物資を配給にするためや、国民生活の安定に必要な物の価格を統制するため、政令を定める権限を内閣に与えています。

西:法律で決められていることは、それに従えばよいでしょう。しかし、我々はすべての事態を想定して法律を事前に整備することはできません。既存の法律で対処できない時に、国民の生命、身体及び財産を保護する目的で、政府に権限を与えるのがこの案の骨子といえます。