木村:そうですね。しかし、この第6案の9条1項の書き方は少しまずい。この表現だと、「自衛戦争」を肯定することになりかねないからです。法律は、分かりやすいことがすなわち良いことではないのです。

自衛戦争は「自衛を名目にした戦争」ですね。目的は自衛かもしれないが、侵略を受けていないにもかかわらず宣戦布告するもの(関連記事:「もし「自衛権」を国民投票にかけたらどうなるか?」)。

木村:はい、そうです。「侵略の手段」としての武力行使は許されないけど、「自衛の手段」としてならよいと解されかねません。2003年に起きたイラク戦争を思い出してください。大量破壊兵器を使われては困るからと、英米は「自衛」のためにイラクに対し戦争を始めました。このパターンの戦争が自衛戦争です。満州事変も太平洋戦争も同様です。これらが許されてしまいかねない。

 不戦条約が複雑な表現になっているのは、こうした自衛戦争も禁じるためです。自衛戦争を含む実質的な意味での侵略を、「侵略」という言葉を使わずに表現した。

 100年前に不戦条約を議論した国々は、非常に苦心してこの表現を生み出したのです。100年前の議論を学び直してほしいですね。

自衛隊の役割として「国際社会の平和と安定を確保するため」を挙げています。日本は、自衛隊を使った国際貢献の案件が持ち上がるたびに混乱に陥ってきました。湾岸戦争における多国籍軍への後方支援を行なう国連平和協力法案(1990年)、カンボジアPKOへの自衛隊派遣(1992年)などなど。憲法前文で国際貢献を宣言しながら、具体的な条文がなかったことが理由の一つにあるのではないでしょうか(関連記事「あの石橋湛山も重視した集団安全保障を憲法に」)。この点において、評価できる条文に読めます。

木村:これは国連決議に基づく多国籍軍やフルスペックの集団的自衛権の行使を可能にする表現ですね。したがって「国防軍」を設置するのと同じです。自衛隊の行動範囲をこれまでの案に比べて明快に規定していると思います。

 ただし、国民投票で可決するのは難しいでしょう。国民が許容する武力行使のラインを大幅に乗り越えているからです。最近の世論調査によると、国防軍の設置に賛成するとの回答は1~2割しかありません。公明党や日本維新の会も受け入れないと思います。

単に「自衛隊」ではなく「陸海空」自衛隊を保持するとしている点は重要な意味を持ちますか。

木村:この意図はよく分かりません。現行の9条2項が「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」としているので、そこから引いたのでしょう。

 あまり好ましい書きようとは思いません。技術は進歩するので、サイバー軍とか宇宙軍とか、地中軍が必要になることがあるかもしれません。限定しないほうがよいのではないでしょうか。