自衛隊の役割を何も書かないことで、「今のままの自衛隊」を暗示することにはなりませんか。

木村:書かないと、拡大解釈することもできれば、縮小解釈することもできるので好ましくありません。拡大解釈すれば自衛隊と名がつけば何をやってもよいということになる。一方、縮小解釈すれば、個別的自衛権すら行使できないかもしれない。「攻撃を受けた時に反撃できる」とは書いてない上に、9条2項はそのまま残っているわけですから。なんとでも解釈できる表現は危険です。

フルスペックの集団的自衛権を認めることになる

9条2項を維持する4つ目の案(第4案)についてうかがいます。これまでの3案は「自衛隊」について定めていましたが、ここからの2案は「自衛権」について定めています。

【9条3項】

前2項の規定は自衛権の発動を妨げない

この案は、「自衛権の発動を妨げない」としています。「妨げない」という表現は、先ほどの説明に照らして考えると、「発動しないこともある」と示唆しているわけですね。

木村:はい。この点に関しては、つつましい表現と言えるでしょう。しかし、この「自衛権」には何も限定がついていないので、個別的自衛権と集団的自衛権の両方を含むと解される。しかも、その集団的自衛権に制限がついていませんから、フルスペック*の集団的自衛権を認めることになる。「妨げない」としたところで、過激な案といえるでしょう。

*:制限を設けない全面的なもの

 さらに、9条2項との間に矛盾が生じるのも問題です。この規定によれば、集団的自衛権が行使できるようになりますが、先ほどお話したように、集団的自衛権は軍事権に属します(関連記事「もし「自衛権」を国民投票にかけたらどうなるか?」)。これに対して、9条2項は軍事権を行使する戦力の保持を禁じていますから、集団的自衛権を行使する組織の存在を否定しています。これは、両立し得ません。

 「前2項の規定は個別的自衛権の発動を妨げない」とするなら、両立し得るのですが、限定的な集団的自衛権行使を認めた安保法制があるので、そうは書けません。ここにも、安保法制のツケが現れています。

この案は「9条3項」としていますね。第3案までは「9条の2」(注:9条と10条の間に新たな条を設ける場合にこの形を取る)としていました。この違いは何を意味するのでしょう。

木村:大きな差はありません。「9条3項」とすると9条を修正したことになります。一方、「9条の2」とすれば、「9条には手を付けていない」ということができます。9条に手を加えることに抵抗感を抱く国民に対して、よく言えば「配慮した」表現。悪く言えば「ごまかし」です。コマーシャル効果を狙ったものですね。