国民を騙して有力案を国民投票で通す?

 現状の自衛隊を憲法に明記するなら、武力攻撃事態や存立危機事態の時に自衛隊は武力行使できると明確に書かねば、誠実な対応とは言えません。具体的には、防衛出動(編集注:武力行使の前提としてこの命令が必要)について定めた自衛隊法76条の文言の趣旨を憲法に盛り込むべきでしょう。

【自衛隊法】

(防衛出動)
第76条
内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
この場合においては、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律第9条 の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。

  1. 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態(武力攻撃事態
  2. 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(存立危機事態

 憲法に、このような条文があれば、安保法制が違憲であるとの懸念を解消することができます。

 しかし、この案文を国民投票で通すのは容易ではないでしょう。大きな反発が予想されます。「自衛隊」の存在ではなく「集団的自衛権行使」の是非が問われるからです。絶対無理とは言いませんが、2015年安保法制での議論を思い起こすと、国民は強い抵抗感を抱くのではないでしょうか。

 だからこそ、自民党は自衛隊の任務をできるだけ曖昧にしているのだと思います。その上で、「今のままの自衛隊」を明記するだけだと国民に説明する。国民の中には、個別的自衛権を行使する自衛隊は認めるものの、集団的自衛権を行使する自衛隊には抵抗感を抱く人が多いですから、安保法制で集団的自衛権の行使が容認されていることを誤魔化せば、なんとなく賛成してくれる人も増え、国民投票で可決されるかもしれない。

 そして、可決した後に、「今のままの自衛隊」とは安保法制を前提とした自衛隊である、よって集団的自衛権を行使容認が国民投票で認められたと言い換える。有力案には、こうした狙いが透けて見えます。言い換えれば、国民を騙して有力案を国民投票で通し、それをもって、集団的自衛権の行使が認められた、と主張することが想定されるのです。

確かに、「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つための必要最小限度の実力組織」は2014年閣議決定前の自衛隊を読む者の頭の中に描かせる表現です。2項で、国会の統制をかけているので、安心感も増す。

木村:この裏を返せば、自民党は安保法制に自信を持てないでいるということでしょう。自信があるなら、自衛隊法76条と同じ文言を改憲案に明記して、国民投票にかければよいのです。安保法制を強引に成立させたツケが回ってきたということでしょう。