言い換えれば、我が国が武力攻撃を受けた時、もしくは相手国が我が国に対する武力攻撃に着手した時に、これを排除するための必要最小限度の実力として自衛隊を位置づけていました。

 有力案の表現は、自衛隊の武力行使を旧三要件を充たす武力攻撃事態の時のみに限定するのか、そうでないのかが不明です。

 というのも、2014年閣議決定は、これに加えて、新たに定めた新三要件の下でも武力行使が可能としました。

【武力行使の新三要件】
  • わが国に対する武力攻撃が発生したこと、又はわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること(存立危機事態
  • これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
  • 必要最小限度の実力行使にとどまること

 この新三要件の冒頭に挙げられている存立危機事態の説明と、有力案の表現とは全く異なります。これでは、存立危機事態において自衛隊が武力行使できるかどうかも分かりません。

 以上のことから、この案には二つの問題があることが分かります。一つは、武力攻撃を受けた場合を超えて、すなわち拡大解釈して、武力行使できる可能性があることです。例えば、イラクのクェート侵攻に反撃するために行われた湾岸戦争ですら、「我が国の平和」を守るための武力行使と強弁する人もいるでしょう。シーレーン封鎖によって石油の輸入ができなくなった事態をもって「独立」が侵されたという人が現れるかもしれない。

 第2の問題は、この有力案では安保法制が合憲かどうか判断することができないことです。私は、安保法制による集団的自衛権行使の限定容認は、政府の説明を前提とすると違憲と評価せざるを得ないと考えます(関連記事:「もし「自衛権」を国民投票にかけたらどうなるか?」)。2015年の審議の過程であれだけの混乱を招いたのですから、改憲案は集団的自衛権行使の限定容認が合憲か否かを明確にする必要があるのではないでしょうか。

行政機関としての自衛隊は73条で定めるべき

自衛隊を「必要最小限度の実力組織」と位置づけているのは、現行通りですね。

木村:それが、そうではないのです。「必要最小限度」かどうかは、その目的が何であるかによって異なります。侵略のために必要な最小限度と、個別的自衛権を行使するのに必要な最小限度は異なる。

 有力案の表現は、何のための必要最小限度なのか不明です。先ほどお話した通り、「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つため」が武力攻撃事態への対処だけを指すのか、存立危機事態への対処を含むのかが不明だからです。もっと言えば、存立危機事態がどのような状況を指すのかがそもそも判然としていないという問題もあります。