まずは、国民に何を問うかを考える

これまで7つの案について解説していただきました。どれも、いろいろな問題を抱えている。

 木村さんの提案は、「今のままの自衛隊」をそのまま憲法に盛り込むならば、自衛隊法第76条が定める防衛出動のための要件をそのまま利用するのがよいということですね。

木村:その通りです。

 いまの改憲論議は2つのことを同時にやろうとしているので混乱しています。1つは、日本を守るための自衛隊、もしくは個別的自衛権の行使を認めるか否か。もう一つは、その自衛隊に、集団的自衛権を根拠とする他国の防衛を援助するための武力行使を認めるか否か。前者は自衛隊法76条が定める武力攻撃事態、後者は存立危機事態に相当します。

 国会法第68条の3は「(前略)憲法改正原案の発議に当たつては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする」と定めています。したがって、この2つの論点は、別個に国民投票に発議する必要があります。個別的自衛権については多くの賛同が得られるでしょう。他方、集団的自衛権については大きく意見が割れるのではないでしょうか。この点からも両者を分けて発議すべきと考えます。

 私は最近の世論調査のあり方に疑問を持っています。これらの2つのことを分けずに質問しているからです。「9条改正に賛成ですか」という質問があります。これには「反対」の回答が多い。一方「自衛隊の明記に賛成ですか」との質問には「賛成」が多くなる。

同じことを聞いているのに答が分かれるわけですね。

木村:そうです。これはなぜか。「自衛隊の明記に賛成ですか」との質問は、「個別的自衛権の行使を認めるか」と理解される傾向があるからです。これに対して「9条改正に賛成ですか」は集団的自衛権の解禁とか、国連決議に伴う武力行使への参加について問われていると解される。

 この点からも、以上の2つのことは分けて国民投票に発議すべきと考えます。

これからの改憲論議に期待する点は何でしょう。

木村:国民投票で国民に何を問うのかを明確にすることです。今はここが明確になっていない。理由は2つあります。

 第1の理由は、今の議論は、条文案をいきなり作ろうとしていること。通常の法律の改正は、実現すべき内容を考え、要項をまとめることから始めます。何を実現したいのかさえ決まっていれば、条文作りは最後の仕上げの技術的な作業です。専門家に任せればよい。

国民投票は要項のレベルで行なうものですか。

木村:いえ、条文に表わしてから行ないます。しかし、要項で「そもそも何がしたいのか」を示されないと、条文だけを見ても何を意味するのか分かりません。

 もう一つの理由は、自民党が安保法制に自信を持てていないことです。限定的な集団的自衛権行使を容認する安保法制と整合性が取れる形で憲法に自衛隊を位置づけようとすれば、国民の賛同が得られない可能性が高い。よって、国民投票を通すためには、条文をあいまいなものにせざるを得ないわけです。

 繰り返しになりますが、安保法制を成立させる前なら、憲法に自衛隊を位置づけるのは容易でした。安保法制のツケが回ってきたのです。