(前回はこちら)

香田さんは、北朝鮮が日本に向けてミサイルを1発撃っても自衛隊は防衛出動できない可能性があると指摘されています。これは、どういうことですか。
香田:我が国は、個別的自衛権を発動し、防衛出動を発令して、はじめて武力行使が可能になります。同時に、武力行使を乱用・濫用しないためこの発動に要件を設けている。
新三要件ですね。
武力行使の新三要件
(1)わが国に対する武力攻撃が発生したこと、又はわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること(存立危機事態)
(2)これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
(3)必要最小限度の実力行使にとどまること

香田:そうです。政府は(1)の「武力攻撃」について、「一般に、一国に対する組織的計画的な武力の行使をいう」と国会で答弁しています。
北朝鮮がミサイルを1発発射して東京に着弾し、200人が亡くなったとしましょう。これまで国会でなされてきた論議に鑑みると、1発のみの発射・着弾ということから、これは組織的でもなければ計画的でもないと判断されるでしょう。北朝鮮が宣戦布告や最後通牒の手続きを踏むとは考えられませんから。
組織的かどうかを判断するために、北朝鮮軍に対日攻撃命令が出ているか確認すべきだとの真面目な議論も浮上する。もちろん、そんなこと確かめようがありません。もっと言えば「北朝鮮が撃ったとなぜ確定できるのか」と主張する人すら現れかねない。我が国の政府憲法解釈のため、そんな、常識はずれの入り口論から議論しなければならない可能性が高いのです。
あるミサイル攻撃が組織的・計画的なのかをめぐって、大手新聞などのマスコミも主張が分かれるでしょう。
その時の政権が安倍政権のような、安全保障の立場が明快で意思決定がはやい政権であれば、「北朝鮮による攻撃だ」と言い切るかもしれません。しかし、その政権の性格によって対応が異なるので、自衛隊が速やかに対応するのを可能とする命令が出るかどうかが当てにできない。20発ぐらいまとめてミサイルが飛んでくれば、組織的、計画的と認めるのでしょうが。
日本が国として組織的な対応が取れずにいるうちに、第2、第3の攻撃が来る。そしてようやく、これは組織的だと判断して、防衛出動を発令する。自衛隊はそれから対応を開始するわけですから、相当大きな被害が出ることになりかねません。
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