自衛隊に軍事裁判所は必要か

 司法による統制に関連して、三浦氏は軍事法廷の設置を説く。略奪や放火、上官暴行、逃亡、機密漏洩など、自衛官が職務を遂行する上で犯した罪を裁くための裁判所だ。

 戦前・戦中の日本では「軍法会議」と呼ばれたもので、略奪や逃亡を処罰することで軍紀を維持する、上官による私刑などを避け軍人の人権を守る、という二つの役割を担った。裁判は5人の裁判官が担当し、うち4人は軍人が務めた。司法資格を持つ文官を1人入れる決まりだった(時期により異なる)

三浦氏が提案する改憲案
  • ・9条1項は現状のまま
  • ・9条2項は削除
  • ・以下を加える(9条とは限らない)
  • 1)内閣総理大臣を最高指揮官とする自衛隊を置く
  • 2)開戦には国会の承認を要する(開戦権限)
  • 3)国会に調査委員会を設置し自衛隊の行動をチェックする(調査委の設置)
  • 4)軍事法廷を設置する(ただし結審は現行の最高裁判所)
1923年に甘粕事件を裁いた軍法会議の様子(写真:近現代PL/アフロ)
1923年に甘粕事件を裁いた軍法会議の様子(写真:近現代PL/アフロ)

 一方、山尾氏と、社民党の福島瑞穂・参院議員はこれを認めず、「現行の裁判所で行なう制度を維持すべき」(山尾氏)と主張する。これは憲法76条とも関わる。

日本国憲法 76条

  1. すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
  2. 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
  3. すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

 山尾氏は「裁判をするに当たって、ある行為を裁く『規範』と、規範に基づいて判断する『主体』は分けて考える必要がある。規範に関しては、通常の刑法とは異なる、自衛権行使に固有の定めが必要かもしれない。しかし、判断する主体は当事者ではない中立的な第三者である、現行の司法権の主体であるべき」

 福島氏も軍事裁判所について二つの懸念を挙げる。一つは「“事件”が葬り去られる懸念。2014年に護衛艦たちかぜの乗組員が上司から暴行を受け自殺する事件が起きた。私はこの裁判の原告代理人に名を連ねた。こうした事件が隠蔽される恐れがある」(関連記事「安倍政権の「憲法クーデター」を許すな」)

 もう一つは「罪を犯した自衛官の処分が軽くなりがちなこと。どんな組織でも身内には甘くなりがち」(福島氏)とみる。

 福島氏の懸念とは逆に、軍事裁判所が冤罪を生む源となる可能性を指摘する向きもある。軍紀を引き締めるため、法に定められた以上の刑に処すなど“みせしめ行為”が先の大戦中にあった可能性が指摘されている。

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