(前回はこちら)
安全保障に関わる憲法の条項を議論する際、安全保障法制の法案が議論された2014年以来、集団的自衛権の行使を許容するか否かが大きなテーマになっている(関連記事:「「自衛隊」ではなく「自衛権」を定義する」)。だが、議論すべき点はこれにとどまらない。その他のテーマとして、以下で文民統制(シビリアンコントロール)*と集団安全保障(のちの回)について取り上げる。
文民統制を実現する具体的な手段として、内閣(行政)からの統制、国会(立法)による統制、裁判所(司法)による統制の3つが考えられる。国際政治学者の三浦瑠麗・東京大学政策ビジョンセンター講師、立憲民主党の山尾志桜里・衆院議員、憲法学者の西修・駒澤大学名誉教授の3氏が内閣(行政)からの統制を、三浦氏と山尾氏は国会(立法)による統制も提案している。

まず内閣からの統制について。三浦氏は「内閣総理大臣を最高指揮官とする自衛隊を置く」との文言を9条に追加するよう提案する。現在は自衛隊法で定めていることを憲法に“格上げ”する。
自衛隊法 第7条
内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有する。
これにより、自衛隊が首相の下にあることを明記する。「自衛隊が政府内政府のような存在になってしまっては困るから」(三浦氏)だ(関連記事「中学生が読んで自衛隊違憲となる憲法はおかしい」)。
憲法は66条で「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」と定めている。三浦氏はこれでは不足とみる。「66条は、芦田修正*が認められて軍が復活した時に旧軍人を排除するための条項と考えられる。陸海軍の現役武官が陸海軍の大臣になるという戦前の悪弊を絶つために必要だった。ただし、文民統制は『現役の軍人を大臣にしない』よりもっと広い概念。軍に、市民社会全体の意思を示す仕組みといえる。多くの日本人がこの点を理解していないようだ」
一方、山尾氏は「自衛権の行使」を内閣の役割として73条に明記することを提案する。
日本国憲法 73条
内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
- 一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
- 二 外交関係を処理すること。
- 三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
- (後略)

理由は二つある。「一つは、現行の憲法解釈の“まやかし”を解消すること。政府は個別的自衛権の行使を、73条が定める『一般行政事務』の一部と解釈している。しかし、外交と軍事は表裏一体だ。自国防衛のための実力組織の統制権能が『一般行政事務』の一部であってよいとは思わない」(山尾氏)(関連記事「自衛権に歯止めかける改憲を」)
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