①現行9条を残しつつ、抑止力強化を目指す

 ①を提案する一人は、希望の党で政策調査会長を務める長島昭久・衆議院議員だ。集団的自衛権についてこう考える。「(行使できるようにするのは)日米同盟が安定的に機能するようにして抑止力を高めるため。同盟の持続性を高めることにもつながる」 (長島氏)(関連記事:「自衛権を定め抑止力を高める現実的妥協」)

希望の党で政策調査会長を務める長島昭久・衆議院議員(写真:加藤 康)

 「私は、『平時のコストと有事のリスクのバランス』」という言い方をしている。平時のコストは基地の提供や、これに付随する環境問題や犯罪被害。これは日本が米国より重く負担している。しかし、有事になれば、米国が戦闘のリスクを重く負担する。日本は、沖縄の基地の返還を求めるなど、平時のコストを軽くするよう求めている。ならば、有事のリスクを今以上に負担しなければ日米の責任分担はバランスしない」(同)

 長島氏は集団的自衛権の許容を、以下に示す3項で表現するよう提案する。

長島氏が提案する日本国憲法9条3項

前二項の規定は、我が国にとって急迫不正の侵害が発生し、これを排除するために他の適当な手段がない場合において、必要最小限度の範囲内で自衛権を行使することを妨げると解釈してはならない

 下線の部分は、「自衛権発動の三要件」(旧三要件)から引いている。安倍政権が2014年の閣議決定で集団的自衛権の限定行使を容認するまで、政府は個別的自衛権だけを想定し、旧三要件を満たす場合に限って行使できるとしていた。

【自衛権発動の三要件】(旧三要件)
  1. わが国に対する急迫不正の侵害があること
  2. この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと
  3. 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

 長島案は、旧三要件が「わが国に対する」としていた部分を「わが国にとって」と改めることで集団的自衛権の行使を許容する。一方で、この三つの要件を課すことは、その行使を強く抑制することになる。

第二次世界大戦が残した強烈なトラウマ

 長島氏は、9条に「自衛隊」ではなく「自衛権」を定めることを重視する。「戦力」をめぐる神学論争に終止符を打つためだ。そして、この案を「現実的妥協」と呼ぶ。

 「『自衛隊』という手段ではなく、『自衛権』という目的を定義すれば、自衛隊はおのずと『自衛権』を行使するための実力組織ということになる。『戦力』をめぐる神学論争を完全に払拭できるわけではないが、安倍案よりもずっと明瞭だ」(長島氏)

 神学論争を終わりにするには、9条2項を削除するのが最も抜本的。だが、長島案は9条の1項と2項を現行のまま残す。「2014年に安全保障法制をめぐる議論が交わされる中で、9条1項と2項が深く広く国民の間に定着していることを改めて思い知らされた。左派の人だけでなく多くの大衆が、戦争に巻き込まれることを真剣に憂慮した」

 「9条1項と2項はなぜ定着したのか。元々は、第二次世界大戦の敗戦が生み出したトラウマだった。あの戦争がもたらした惨禍はあまりに悲惨だった。このトラウマが戦争を経験した世代だけでなく、次の世代、その次の世代へと引き継がれた。このトラウマを吹き飛ばし、9条1項と2項を変えるのは並大抵のことではない」(長島氏)。ここに同氏が「妥協」と呼ぶゆえんがある。