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 今回から、「私の憲法改正論」で紹介してきた憲法学者や国際政治学者、政治家が提案する改憲案のエッセンスをテーマごとに紹介する。これらを分類すると、「集団的自衛権の行使」を認めるものと認めないものに大きく分かれる。ここには「同盟のジレンマ」 が顕著に表れる。同盟には「同盟国から見捨てられる恐怖」と「同盟国のために戦争に巻き込まれる恐怖」がつきまとう。

日米合同演習中に言葉を交わす陸上自衛隊の隊員と米海兵隊の兵士(写真:UPI/アフロ)
日米合同演習中に言葉を交わす陸上自衛隊の隊員と米海兵隊の兵士(写真:UPI/アフロ)

 集団的自衛権の行使を「許容すべき」と考える人々は、以下の現状認識に立ち、「同盟国から見捨てられる恐怖」を強く感じる。①北朝鮮が開発を進める核・ミサイルの脅威が増すなど安全保障環境が変化し、これに対処するためには米国との連携強化が欠かせない。しかし、②米国にアジアへの関与を強める余裕はない。ロシアや中東の問題に依然として足をとられている。③財政上の懸念もある。そして④トランプ政権は「米国第一」を掲げ、内向きの姿勢を強める。この米国をアジアの防衛に引き留めるためには、日本が集団的自衛権の行使などを可能にし、米国を一層支援する姿勢を示す必要がある。安倍政権や国際政治学者の多くがこの見方を取る。

 他方、集団的自衛権の行使を「許容すべきでない」と考える人々は「戦争に巻き込まれる恐怖」により敏感だ。彼らの現状認識はこうだ――集団的自衛権の行使を認めず、米国との軍事行動に一線を引いてきたからこそ、日本は平和国家としてのブランドを勝ち得た。許容すればイラク戦争のような戦争に参加することになるかもしれない。リベラル志向の政治家にこの立場を取る人が多い。

 集団的自衛権の行使を「認める」案はさらに、「9条2項」を現行のまま残すもの(表の①)と、修正するもの(②)に分類できる。一方、集団的自衛権の行使を「認めない」もの、すなわち個別的自衛権の行使に限定して許容する案は、現行9条の条文を修正する案(③)と、現行のまま残す案(④)に分かれる。以下、①から順に説明する。

●紹介する改憲案の位置づけ (敬称略)
9条を修正する 9条を維持
9条2項を維持 9条2項を修正
集団的自衛権の行使を認める
長島昭久
西 修

三浦瑠麗

篠田英朗*
集団的自衛権の行使を認めない
(個別的自衛権の行使に限る)

山尾志桜里

福島瑞穂
*:篠田氏は「9条は全面削除しても何の支障もない」とも指摘する

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