トランスヒューマニズムとは、テクノロジーの発展を今以上に進め、生活や肉体により積極的に取り入れていくという考え方か。

イシュトバン:その通りだ。そして、ゴールは科学とテクノロジーを駆使して死を乗り越えることだ。私は今後25年くらいの間に人々は体のいろんな部分を取り替えるようになると考えている。事故で肉体が不随になった人の脳にデバイスを移植して身体を動かせるようにしたり、目の見えない人の眼球にデバイスを移植して目を見えるようにしたり。失われた機能の再生が基本だが、それだけではない。

「25年後には身体の一部が機械になる」

 私の予測では、10年後には50%の米国人が身体に何かしらのチップを埋め込むだろう。25年後には実際に身体の一部を機械と取り替えるようになるだろう。それが便利だからだ。クレジットカードも身分証も飛行機のチケットも不要になる。

 最近、米海軍の関係者から相談を受けた。新たに入隊する若者の中には身体の中にデバイスを入れているものがいる。だが、そのデバイスは米軍が移植したものではなく、セキュリティー上の不安がある。どう対処すべきかと私のところに相談に来たんだ。こういったラディカルな状況はもはや無視できないものになっている。

今後、我々の生活を変え得るテクノロジーには他に何があるか。

イシュトバン氏:人工心臓は研究が進んでいて、既に試験的に移植されている。フランスのバイオメディカル企業カルマトなどが有名だ。心臓にかかわる病気で亡くなる人は少なくない。心臓が交換可能になれば、死は劇的に変わるだろう。心臓が健康であれば、その他の臓器もいい状態に保てる。

 心臓に限らず、我々は様々なものを取り替えることになるはずだ。触れたものを感じることができる人工の手の研究も始まっている。冷たいとか、柔らかいとか、最初はそういう情報を指先から得るレベルだが、やがて人間よりも正確になり、触れたものの温度とか、触っただけで何に触れたかまで分かるようになる。電子レンジのように、握ったものを指先で温めることさえできるようになるかもしれない。

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