年間200人以上の経営者に人材戦略などをコンサルティングしているプロノバの岡島悦子社長。経営者と二人三脚で経営人材を育成してきた経験から、今後ますますゼロから事業を創造する「ゼロイチ人材」が不可欠になるという。その理由とゼロイチ人材の育成法について聞いた。
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塩野義製薬・手代木功社長を招いた読者との対話会「日経ビジネスRaise Live」を開催します。参加ご希望の方は、募集要項をご覧ください。
■開催概要
日経ビジネスRaise Live
~塩野義製薬・手代木功社長「理と情の先読み経営」~
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■開催日時
2019年1月21日(月) 18:30~
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岡島悦子(おかじま・えつこ)氏
経営チーム開発コンサルタント、経営人材の目利き、リーダー育成のプロ。
三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー、グロービス経営陣を経て、2007年プロノバ設立。丸井グループ、セプテーニ・ホールディングス、リンクアンドモチベーション、ランサーズ、ヤプリ、FiNC Technologies他の社外取締役。経営共創基盤やグロービス・キャピタル・パートナーズ等、多数企業の顧問・アドバイザー、政府委員会メンバー、NPO理事等を歴任。ダボス会議運営の世界経済フォーラムから「Young Global Leaders 2007」に選出される。 主な著書に『40歳が社長になる日』(幻冬舎)等がある。年間200人の経営トップに対し、経営課題と事業ステージに合致した「最適な経営チーム」を特定し、後継者登用・外部招聘・経営者コーチング・経営者合宿等支援サービスをハンズオンで提供。「日本に"経営のプロ"を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。(写真:小野さやか、以下同)
多くの企業で人材育成に携わってこられました。今後、大企業にとってもゼロイチ人材がますます必要になると実感されているそうですね。
岡島悦子氏:今、経営の手法が大きく変化しています。これまで企業は既存の事業を延長していけば成長できた。しかし、今は違う世界観になっていて、「非連続の成長」が求められています。技術革新などによって、ある日突然、主要事業の成長が止まることもある。例えば富士フイルムは、売り上げの大半を占めていた写真フィルムの需要が激減し、今や化粧品や医薬品事業へと舵を切っています。
事業構造が大きく変わるという時に、これまでの成功モデルが当たり前になってしまっている経営者たちだけでは、なかなか対応しきれない。そんな時にゼロからイチを生み出せる人材が必要になります。今までの成功モデルからくる無意識のバイアスを超えられる。そんな人が会社を新たな成長に導いてくれます。
ゼロイチ人材がリーダーとなった時は、これまでのリーダーとは異なるタイプになるのでしょうか。
岡島氏:昭和モデルの経営のやり方は、カリスマ的なトップがビジョンを定め、それに部下が従っていくという上意下達式でした。しかし、これからの時代はトップが独断で物事を決めるのではなく、自社が提供する新しい価値を顧客と対峙しながら共創し、ブラッシュアップしていくことが求められています。スマートフォンやインスタグラムのようなアプリにしても、最初に登場した時はこんな使われ方をされるなんて誰も想像できていなかったと思います。いわば、顧客が自分たちで新しい使い方、新しい価値を編み出していった。
だからこそ、顧客の声に耳を傾けて、それをもとに行くべき方向を決定する。そんな力が求められています。
カリスマ型がピラミットタイプの組織だとしたら、その反対とイメージすればわかりやすいでしょうか。これからの時代のリーダーは、先頭に立って集団をリードするのではなく、羊飼いのように後ろから集団を巻き込み、支援し、ある方向へと追い込んでいく。いわゆる「羊飼い型のリーダーシップ」と呼ばれるタイプのリーダーシップを発揮することになるはずです。
辺境の部署や中途社員がゼロイチを生む
ただ、組織のなかで誰がゼロイチ人材かを判断するのはとても難しそうですね。
岡島氏:時代の変化にいち早く気づける人でなければゼロからイチを生み出せない。
だから、これまでの成功モデルにどっぷりと漬かっている人は難しいでしょうね。たとえば、入社してからずっと花形部署にいる、というような人はゼロイチ人材にはなりにくい。いわゆる“よそもの”がいいと思います。
一見すると左遷されたかのような辺境の部署にいたり、中途で入社してきたり。外国人でもいいかもしれません。保守本流から離れた人材の中に、ゼロイチはいると思います。
岡島さんはご自身の経験の中から、ゼロイチになりやすい人の判断基準をお持ちです。
岡島氏:ゼロイチになれるかなれないかはある程度見極めることができると思っています。ただ企業によって求める人材が違うので、すべてに当てはまるわけではないのですが、一部をご紹介します。
まずゼロイチの判断基準として重視しているのが、「やんちゃ」であるかどうかということです。誰もが難しいと思っていたプロジェクトでも無理を通してやり切ってしまう力があるか。そして、誰も気づかない疑問にいち早く気づく視点があり、正義感、お客様愛、会社愛を持って物事を進められるか。社内で「優等生」と言われるタイプではないけれど、憎めなくて、実行力のある人です。
ゼロイチ人材かどうかを見極めるためにいくつかのキラークエスチョンも用意しています。まず、子供のころに親に隠れて「秘密基地」を作っていたかどうか。これは自分なりのルールでゲームメーキングができるかどうかをみています。
2つ目が会食や飲み会の幹事をよく引き受けているか。こういう人はホスピタリティ精神が高く、プロデュース能力に長けていることが多い。
3つ目が受験勉強をラクにこなしたか。高学歴というのは否定するものではないと思っています。ただ、死ぬほど勉強してやっと合格したという人は、ゼロイチにはなりにくい。受験勉強がラクだったという人は、要領がよく、ツボを押さえるのがうまい証拠です。
そして、ゼロイチの共通項として、幼い頃にご両親が離婚したなど、家庭に何らかの不具合があったというケースも多いです。こういう人は若いうちから親のためではなく、自分のためにやりたいことを見つけて動き出しているケースが多い。自分なりの物差しを持っていて、自分の幸せを自分で決めようとする。ただ、どこかで満たされていない飢餓感や欠乏感があり、それが原動力にもなるのです。
死ぬほど挑戦させて、失敗してもらう
「これはゼロイチになりそうな人材だ」と目星をつけたら、どのように育成していくのでしょうか。
岡島氏:まず組織の風土になじみ過ぎていない、手あかがついていない状態で、色々なことに挑戦させていく必要があります。35歳以下、できれば30歳以下くらいの若いうちから、子会社への出向や新規事業、海外転勤など様々なチャレンジをさせていく。そこで意思決定の場に立ってもらい、どんどん失敗してもらう。挑戦の数を死ぬほど増やすことで、何かを生み出す。ゼロを100回繰り返したら、やっと1が生まれるかどうかなんです。
多くの企業はこれまでOJTを重視してきましたが、それだけではゼロイチは生まれません。同じような社員が生み出されるだけで、考える力を失ってしまうのです。重要なのは、意思決定の「場数」をいかに踏ませるか、だと思います。
社内に「ゼロイチ人材」に該当する社員がいないという場合もありますよね。
岡島氏:ゼロイチ人材はある程度「作れる」と思います。組織の風土に慣れ、“汚染”されてしまう前に、様々なチャレンジをさせ、失敗をしてもらえばいいのです。
ただゼロイチ人材を育てるのはとても時間がかかります。まず、わらの中から針を探すようにゼロイチになり得る人材を必死で探しだし、5年、10年かけてチャレンジをさせていく必要があります。しかも挑戦させたからといって必ずしもゼロイチ人材になれるわけではない。
だから先見性のある企業は業績のいい時からゼロイチ人材の育成を始めています。業績が傾いた時に慌てて育成を始めても、間に合わない。
業績がいいからといって、のんびりしているヒマはありません。せっかくゼロイチの芽を持っている人材でも、社内の風土に染まり過ぎてしまったら、その芽は失われてしまう。
破天荒だけれどなんだか憎めない。荒削りだけど実行してしまう――周囲にそんなゼロイチの芽をもつ人材がいたら、「変わり者」と排除せずに、ゼロイチになりうるのではないかと、その人の可能性に賭けてみる。そんな度量が企業には求められています。
日経ビジネスRaiseのオープン編集会議では「ゼロイチ人材の育て方」をテーマにした企画を実施しています。イノベーションを活性化しようと、モノやサービスを創造する“ゼロイチ人材”を求める声は日増しに高まっていますが、同調圧力の強い日本社会ではそうした人材が育ちにくいといった批判も尽きません。そもそもゼロイチ人材ってどんな人? ゼロイチ人材の目を摘んでいるのは誰? こんなことをみんなで議論しています。
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