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AIで孤独は癒やせない

孤独を解消するロボット。とてもユニークな発想ですが、どう開発していったのですか?

吉藤氏:ロボットの開発を本格的に始めようと、高等専門学校に編入しました。そこでAI(人口知能)を搭載したロボットを作り、人間の友達のような存在にすれば孤独は癒やせるはずだと考えていました。ただ研究を進めれば進めるほど違和感を覚えたのです。人口知能は本当に孤独を解消してくれるのかと。

 当時の私は、以前と同様に周囲とのコミュニケーションがうまくいかず、友人がいませんでした。しかし「ロボットの友達を開発するために高専にきたのであって、人間の友達は必要ない」と考えていました。黙々と誰とも話さず、研究を続けていたのです。

 ただ、ある日猛烈な違和感を覚えました。本当に人工知能で孤独は解消できるのか。工業高校時代、私も多少社会復帰できていたと思うのですが、それは周囲の人が支えてくれていたからではないか。人付き合いはストレスばかりで面倒なものだが、人を癒やせるのは人だけなのではないか。このまま友人がいない私がAIを搭載されたロボットを作り、本当に孤独は感じなくなるのかと。

 そして「AIで孤独を消すことはできない」と判断し、せっかく編入した高専を1年足らずでやめてしまいました。

その後早稲田大学に進学することになります。

吉藤氏:たまたま以前出場した科学コンクールの優勝者を対象にした入試制度があったので、それを受けることにしました。ただ、早稲田では誰も私のやりたいことを理解してくれる人はいませんでした。ゼロからイチを生み出すようなことをしているときは、最初は誰にも理解されないし、応援もされないと思うので、ある意味当然のことだとは思います。

 入りたい研究室が1つもなかったので、自分の下宿先に1人で研究室を作ることにしました。それが、会社の前身ともなるオリィ研究室です。「オリィ」というのは当時の私の呼び名です。折り紙が得意だったことから、そう呼ばれていたんです。

大学は必修科目を無視して、出たい授業のみ出席

たった1人の研究室では何をしていたんですか?

吉藤氏:ネットで情報を収集しながら、ロボットの研究を始めました。この当時から分身型ロボットの発想がありました。病気などで自分がその場に行けなくても、そこに行っているかのような感覚を味わい、孤独を感じないようにする。そのためには自分のもう一つの身体、分身を作ることが必要だと。

 大学を卒業することをあきらめて、自分が出たいと思った授業だけに出ることにしました。必修科目は無視して、ロボットに必要な美術、会社経営の知識が得られる商業など、他の学科の授業も含めて面白そうなものだけもぐりこむことにしたのです。9年間通いましたが、結局、卒業していません。

 そもそも大学の卒業資格はなぜ必要なのでしょうか。卒業するために興味のない授業に出席しなければならない。卒業資格を考えず、本当に興味がある授業を受けた方がよっぽど身に付きます。親は「大学に行け」と言いますが、それは子供を「会社から必要とされる人間」にしたいからではないでしょうか。

1人だけの研究室から、会社を設立するに至ります。

吉藤氏:やはりロボット開発は私1人の情熱だけでは続きません。お金も必要です。ロボットのプロトタイプが完成してから、学生ビジネスコンテストなどに出て、そこで得た賞金をもとに会社を設立しました。

 ただ、儲けたいという気持ちはありません。むしろ身銭を切って研究すると楽しい。やりがいを感じるし、仕事が趣味になりますよね。

吉藤さんのような「ゼロイチ人材」になるにはどんなことが必要なのでしょうか。

吉藤氏:とにかく自分が本当に何をしたいのかを見つけることです。世間の評価なんてころころ変わります。ほんの10年前は「変人」「変わっている」は悪口でした。でも今や「変わっている」は一種の褒め言葉ですよね。

 世間の顔色を窺うのでなく、自分の顔色を窺ったほうがいい。何がやりたいのかわからないのであれば、いろいろと挑戦してみる。痛手を負わない程度にやってみて、違ったらまた次のことを探してみる。

 私はもともと体が弱かったので、常に「人生は有限」ということを意識して、やりたいことを探しました。だから、仮に100億円積まれても、「やりたくないこと」は絶対にしたくありません。「あと10年しか生きられなかったら何をするか」と考えてみれば、自分の本当の気持ちが分かるかもしれません。その気持ちに素直に行動すればいいと思います。

日経ビジネスRaiseのオープン編集会議では「ゼロイチ人材の育て方」をテーマにした企画を実施しています。イノベーションを活性化しようと、モノやサービスを創造する“ゼロイチ人材”を求める声は日増しに高まっていますが、同調圧力の強い日本社会ではそうした人材が育ちにくいといった批判も尽きません。そもそもゼロイチ人材ってどんな人? ゼロイチ人材の目を摘んでいるのは誰? こんなことをみんなで議論しています。

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